バルカン問題(読み)バルカンもんだい

改訂新版 世界大百科事典 「バルカン問題」の意味・わかりやすい解説

バルカン問題 (バルカンもんだい)

オスマン帝国の衰退にともなって強まったバルカン諸民族の独立を求める運動と,それに対するオスマン帝国の対応,およびこれを機に増大したヨーロッパ列強のさまざまな干渉によって引き起こされた国際政治問題をいう。オスマン帝国とヨーロッパ列強との関係は,一般に東方問題としてとらえられるが,19世紀から20世紀にかけてバルカン問題はその重要な一部を構成していた。ただし実際にバルカン問題という用語がひろく用いられるようになったのは19世紀末以後である。

 およそ1774年のキュチュク・カイナルジャ条約以後,ヨーロッパ列強,とくにオーストリアとロシアのバルカンへの勢力拡大の意図が明白になった。バルカンの諸民族は,セルビアが1804-17年の蜂起(セルビア蜂起)によって,ワラキア・モルドバは1821年のブラディミレスクの蜂起によってオスマン帝国から自治権を獲得し,ギリシアは1821-29年のギリシア解放戦争によって独立を認められた。しかしこれらバルカン諸民族の解放運動は大国の利用するところとなり,バルカンは,ヨーロッパ列強の勢力均衡を維持しながら自国に有利なオスマン帝国の分割を求めようとする大国の利害対立の場となった。クリミア戦争後のパリ条約と1877-78年の露土戦争後のベルリン会議によって,ルーマニア,セルビア,モンテネグロは独立し,ブルガリアも自治,やがては独立を獲得するが,その独立や自治は,彼らの希望をみたすものではなく,大国の利害によって制約されたものであった。19世紀末~20世紀初めの帝国主義の時期には,オスマン支配下に残されていたマケドニアと,ベルリン会議後オーストリアが行政権を掌握したボスニア・ヘルツェゴビナの動きがバルカン問題の焦点となった。この時期になるとイギリス,ドイツも積極的に介入したが,ロシアが日露戦争後侵略の方向をバルカンに転じ,オーストリアが1908年にボスニア・ヘルツェゴビナを併合したことによって,バルカンの民族運動のなかに偏狭な民族主義と民族間の対立が生まれ,バルカンはヨーロッパの火薬庫といわれるようになった。その結果はバルカン戦争,14年のサラエボ事件となり,第1次世界大戦を引き起こした。

 第1次大戦後のベルサイユ体制のもとで,バルカン諸民族はオスマン帝国からの独立を達成したが,マケドニアなどの領土問題は未解決のまま民族主義的傾向はむしろ強まった。しかし,バルカン戦争のようなバルカン諸国同士の争いに対して,知識人などの批判が高まり,バルカン諸国間の協調の動きやバルカン連邦の構想が生まれたのもこの時期である。バルカン問題は,民族運動と民族主義のあり方について,今なお未解決の問題を提示しているといえよう。
バルカン
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百科事典マイペディア 「バルカン問題」の意味・わかりやすい解説

バルカン問題【バルカンもんだい】

19世紀後半から20世紀初頭,トルコ支配下にあったバルカンの領土および民族問題をめぐって生じた国際的諸問題。一方にはセルビア,ギリシアに始まった非イスラム諸民族の独立運動があり,他方には南下政策パン・スラブ主義をとるロシア,東進政策を推進するオーストリア,東方植民地の経営・拡大を推進する英・仏など列強の帝国主義的利害が複雑に対立していた。後には三B政策をかかげるドイツも加わり,第1次世界大戦の要因になった。→東方問題
→関連項目バルカン半島ボスニア・ヘルツェゴビナ併合問題

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旺文社世界史事典 三訂版 「バルカン問題」の解説

バルカン問題
バルカンもんだい

19世紀後半から20世紀にかけて,オスマン帝国の衰退に乗じて起こったバルカン半島諸民族の独立運動と,西欧列強の介入とによる国際危機
近現代の接点の時期に露土(ロシア−トルコ)戦争(1877〜78,ベルリン条約),第1次・第2次バルカン戦争(1912〜13,ブカレスト条約)の舞台となり,「ヨーロッパの火薬庫」といわれた。ロシアのパン−スラヴ主義とドイツ・オーストリアのパン−ゲルマン主義の路線が「死の十字架」を描くこの地区は,サライェヴォ事件の暴発で,第一次世界大戦の直接原因をつくった。戦後のヴェルサイユ体制と,1923年のローザンヌ条約でトルコ領が確定したことでいちおうの平和をみたが,バルカン諸国の政情は不安定をつづけ,ナチス−ドイツの侵略で再び国境が修正され,独ソ戦争の原因となった。第二次世界大戦後もハンガリー動乱,ユーゴスラヴィアとアルバニアの対立,ギリシアとトルコの紛争,ユーゴスラヴィア内戦,コソヴォ紛争などが起こっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バルカン問題」の意味・わかりやすい解説

バルカン問題
ばるかんもんだい

東方問題

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