日本大百科全書(ニッポニカ) 「パンノキ」の意味・わかりやすい解説
パンノキ
ぱんのき
bread fruit tree
[学] Artocarpus altilis (Parkinson ex F.A.Zorn) Fosberg
Artocarpus communis Fost.
クワ科(APG分類:クワ科)の常緑高木で、太平洋の諸島に遺伝的変異の中心をもつ。樹高25メートル、径60センチメートルに達する。葉は互生し、3~10片からなる深い欠刻をもち、卵形から長楕円(ちょうだえん)形で、長さ40~50センチメートル、革質で表面は光沢がある。雌雄異花で同株。雄花は新枝の葉腋(ようえき)から出る長い花托(かたく)上に密に並び、長さ約20センチメートル、長倒卵形または棍棒(こんぼう)状の花穂を形成し、花穂は白黄色を帯びる。雌花は新枝の頂部に近い葉腋に群がってつき、長楕円形または球形の花穂を形成する。集合果は楕円または球形で、長さ10~15センチメートル、表面に多角形の亀甲(きっこう)状の突起がある。種子は黒褐色で、径2.5センチメートル、種子の周囲を包む果肉は繊維に富む。成熟時には偽果皮は橙紅(とうこう)色となり、デンプン質を含み甘い。本種にはほかに種なし果実をつける系統がある。
果実は太平洋上の島々では普通の食物で、ジャガイモの味に似る。薄切りにして焼き、あるいは煮て食べる。サトイモ類、サツマイモ、バナナなどとともに主食糧としているためパンノキの名が出たという。このほか、果実を薄切りにして乾燥し、粉末化して製菓原料とし、ポリネシアでは果実を土中に貯蔵して発酵させ、チーズ様に変質させたものを焼いて菓子をつくる。マレー半島ではシチューに入れ、また甘く煮てピクルスをつくり、タイでは砂糖漬けとし、スリランカでは酒もつくる。種子は油で揚げるか煮沸して食べるが、この際よく煮だして汁を捨てないと下痢を誘発する系統もあるという。
繁殖は種子、ひこばえ、取木による。樹皮から繊維をとり、材は黄色色素を含み、建築材、ボート材などに用いる。被陰樹としての利用も多い。西インド諸島でもよく栽培される。西インド諸島へは英船バウンティ号Bountyによってもたらされたが、1回目の1789年は船内で反乱が起こり失敗し、1793年の3回目の航海で成功した。
[飯塚宗夫 2019年12月13日]