フランスの言語学者,考古学者,歴史家。特に〈エジプト学の父〉として有名。フィジャックに生まれパリで没。大革命とそれにつづく激動期に人となり,思想的には共和派とされていたが,ルイ18世やシャルル10世の援助もうけている。同じく言語学者,考古学者,歴史家である長兄ジャック・ジョゼフJacques-Joseph Champollion(1778-1867)の庇護と激励のもとにグルノーブルとパリで学び,のち両地で大学教授職についた。少年時代から言語学的天才を発揮し,研究はヘブライ語,アラビア語,シリア語,エチオピア語,ペルシア語,中国語からメキシコの古文字に及び,16歳のころコプト語が古代エジプト語の一分身であることを認識し,その後コプト語辞典の編纂(へんさん)を進めると同時にエジプトの歴史・地理の研究にも熱中した。早くも1811年には《ファラオ統治下のエジプト序説》を著している。
こうして,やや回り道もしたし多くの試行錯誤も経験したが,ロゼッタ・ストーンやフィラエ島出土の碑文などをよりどころとして,古代エジプト文字の解読に成功し,その成果を1822年パリ学士院で発表した。この年が近代エジプト学の出発点とみなされているが,彼の真の偉大さは,この後の短い晩年(約10年間)に,エジプト学の全分野にわたって確固たる基礎を築くために生命を燃焼しつくし,かつ十分に成果を挙げたことにある。すなわち,イタリアとエジプトに調査旅行を敢行して古代エジプトの遺物・遺跡について鋭い的確な評価を与え,また古代エジプト語の文典・辞典もほぼ完成したが,これらの業績は今日なお価値を失っていない。生前にも多くの著作を刊行したが,上記の文典や辞典を含めて重要な研究の数々は,没後遺作として,長命であった兄の手で編集・刊行された。なおこの兄は弟の盛名と自分の名とが混同されることを避けるために,シャンポリオン・フィジャックChampollion-Figeacと自称していた。
執筆者:加藤 一朗
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フランスの言語学者、考古学者。ロゼッタ石を用いてヒエログリフ(エジプト象形文字)を解読したことで知られている。ロート県フィジャック市で生まれ、グルノーブルでヘブライ語を、ついでアラビア語、シリア語、コプト語を学んだ。ナポレオンのエジプト遠征によって古代エジプトに関心をもち、16歳でエジプトに関する著述に着手し、のちにパリに出てエジプト研究を続けた。18歳のときグルノーブル大学歴史学科助教授となったが、このころから健康を損ない、また政治的な争いに悩まされた。1821年にふたたびパリに出てヒエログリフの研究を続け、ロゼッタ石によってその解読に成功し、1822年9月に『ダシエ氏への書簡』という題でパリの学士院で報告した。こののちエジプトとヌビアを旅行し、古代エジプト語の文法を書いたが、生来病弱のために41歳で没した。
[矢島文夫 2018年6月19日]
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1790~1832
フランスのエジプト学者。ヒエログリフを解読して「エジプト学の父」となる。幼少にして語学に秀で,コプト語がエジプト語の新しい形であることを看破。コレージュ・ド・フランスの初代エジプト学教授。文法,辞書を残す。
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… エジプト学の成立は,ナポレオンのエジプト遠征(1798‐99)を契機とする。遠征に同行した学者たちの調査記録《エジプト誌》全21巻(1809‐28)によって研究の基礎資料が集められ,遠征の際発見されたロゼッタ・ストーンを手がかりに,シャンポリオンによるヒエログリフ解読がなされた(1822)。通常この年をエジプト学成立の年とする。…
…この碑文は上・中・下段にそれぞれヒエログリフ,デモティック,ギリシア文字が刻まれており,ギリシア語部分がまず解読され,他の2文も同一の内容をもつという(正しい)想定のもとに,ヨーロッパの言語学者・東洋学者たちが解読を試みた。彼らによる多くの試行錯誤ののち,イギリスのT.ヤングがヒエログリフ解読への〈軌道〉にのせ,これら先覚者たちの成果をふまえて,フランスのシャンポリオンが真の成功をかちとった。彼の天才的なひらめきを助けたものは,コプト語をはじめとする諸言語の素養,古代エジプト語とコプト語との同一性の確認,エジプト史の深い理解,ロゼッタ・ストーンとフィラエ島出土の碑銘との比較研究などであった。…
…教授はコレージュ教授団とフランス学士院の発議に基づいて国家元首が任命し,目下研究中のテーマをまったく自由に講ずることができる。つねに当代最高の学者が教壇に立ち,19世紀以降を見ても,エジプト学のシャンポリオン,聖書学のルナンをはじめ,ベルグソン,バレリーなど,そうそうたる顔ぶれである。1980年代に入ってからは,ギリシア学のジャン・ピエール・ベルナン,人類学のレビ・ストロース,哲学のミシェル・フーコーの講義が名高い。…
…生命・安定などを意味する文字は,石製,陶製,金属製などの護符ともされた。前3100年ころから3000年余の長きにわたり使用され,その後長らく死語(または死文字)となっていたが,1822年フランスのJ.F.シャンポリオンによって解読された。それには単音のもの(24種),2音,3音を含むものがあるが,いずれも子音のみを表しているため,各語の発音の完全な復元は困難である。…
…ギリシア語文は,発見後ただちに解読された。二つのエジプト語文に関しては,ヒエログリフの部分が破損が著しかったのと,デモティックの名が親しみを感じさせたので,学者たちはまずデモティックの解読に挑戦したが成功せず,結局ヒエログリフ部分のカルトゥーシュ(王名枠)内のプトレマイオスという表記の分析と他の碑銘との比較研究によって,フランスのシャンポリオンがヒエログリフの最初の解読者となった。【加藤 一朗】。…
※「シャンポリオン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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