改訂新版 世界大百科事典 「ヒナコウモリ」の意味・わかりやすい解説
ヒナコウモリ (雛蝙蝠)
Oriental particolored bat
翼手目ヒナコウモリ科Vespertilionidaeの哺乳類の総称,もしくはそのうちの1種。ヒナコウモリ科は44属353種からなり,翼手目の種数の1/3を占める。南極および北極を除く世界の亜寒帯から温帯および熱帯に広く分布し,生息場所もきわめて変化に富む。最古の化石はヨーロッパの始新世から知られる。第2指につめがなく,鼻葉を欠き,耳珠(じしゆ)や腿間膜(たいかんまく)がよく発達する。日本産のものは鼻が管状のテングコウモリ属からなるテングコウモリ亜科,第3指が長いユビナガコウモリ属を含むユビナガコウモリ亜科,チチブコウモリ属,ウサギコウモリ属,ホオヒゲコウモリ属,ヤマコウモリ属,アブラコウモリ属,ヒナコウモリ属,ホリカワコウモリ属を含むヒナコウモリ亜科の3亜科に分類される。
ヒナコウモリ(ナミヒナコウモリ)Vespertilio superansは顕著な2色性の毛をもち,背面が霜降り状を呈する。前腕長44~53mm,頭胴長67~73mm。北海道,本州,九州,国外ではウスリー,朝鮮半島,台湾,中国に分布する。耳介の長さと幅はほぼ同じで,耳珠は先端が丸く,その耳珠の最広部は基部付近または中ほどにある。毛の基部は茶褐色または黒褐色,先端はベージュまたは灰色で霜降り状を示す。頭骨は扁平で,狭い隙間に入るのに適応する。海食洞,人家,樹洞などに数頭から何千頭の群れですむ。とくに出産期の初夏には雌の成獣は人家の屋根裏や海食洞に集まって,大群をなし,出産,保育する。このとき,新生児は彼らだけの集団をつくる。人家にすむ場合は糞や尿で天井や床が汚染されるのできらわれる。これらの保育集団は秋には別の場所に移動し,そこで冬眠する。洞窟の入口近くの天井にある幅1cmの岩の割れ目に20頭ほどで冬眠していた例もある。1産1~2子。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報