日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビャクダン」の意味・わかりやすい解説
ビャクダン
びゃくだん / 白檀
[学] Santalum album L.
ビャクダン科(APG分類:ビャクダン科)の常緑高木。幹は直立して高さ10メートル、多く分枝して丸い樹冠になる。樹皮は赤褐色。半寄生植物で、実生(みしょう)すると初めは独立して生育するが、のちに吸盤で寄主の根に寄生するようになる。葉は対生し、長卵形または披針(ひしん)状楕円(だえん)形で長さ5~8センチメートル、先はとがり、全縁である。円錐(えんすい)状の集散花序を頂生し、鐘形で長さ4~5ミリメートルの花を開く。花被片(かひへん)は4枚、初め黄緑色で、のち紫褐色になる。花序の軸との間に関節があり、落下しやすい。果実は球形の核果で径約1センチメートル、多肉質で紫黒色に熟し、中に白色の種子がある。インドおよび南太平洋地域に分布し、インドのマイソールおよびチェンナイ(マドラス)地方では良品を産し、現在は各地に造林されている。
40~50年生の木を伐倒し、根を掘り出し、幹と主根の皮をはいで辺材と心材に分ける。辺材は白色で香気がないが、心材は黄色または赤褐色で芳香があり、質は緻密(ちみつ)で堅く、柔らかい光沢がある。彫刻用材や工芸品、器具材、扇子、線香、薫煙材などに用いる。根の材は、とくに香りが強いので珍重される。心材からとれる精油の白檀油はセスキテルペンアルコールが主成分で淡黄色、現在はせっけんや化粧料の賦香に用いられる。
栽培は肥沃(ひよく)土が最適で、砂礫(されき)土質でもやや劣るが生育する。
[小林義雄 2021年2月17日]
文化史
インドでは紀元前から仏教やヒンドゥー教の寺院の建造物、仏像、彫刻、火葬の薪(たきぎ)、香木とされ、またペースト状にすりつぶして下痢や皮膚病の薬に使われた。その香りは仏典では菩薩(ぼさつ)の菩提心(ぼだいしん)の如(ごと)し(『華厳経(けごんきょう)』)とされ、釈迦(しゃか)は臨終の際、弟子の阿難(あなん)にビャクダンの棺(ひつぎ)に納め、ビャクダンなどの香木を薪にせよと命じた(『中阿含経(ちゅうあごんきょう)』)。中国には仏教とともに知られ、インドなどから輸入され、沈香(じんこう)に次ぐ香木であった。日本でも仏像や香木として珍重された。法隆寺宝物館の香木には古代ペルシアのパフラビー文字が刻まれ、ソグド文字の焼き印が押されてあり、7~8世紀の東西交渉を物語る。『源氏物語』に白檀の仏像の描写があり、法隆寺の九面観音像、和歌山県金剛峯寺(こんごうぶじ)の枕(まくら)本尊はビャクダンに彫られている。「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」の諺(ことわざ)はセンダン科のセンダンをさすのではなく、ビャクダンであり、ビャクダンの中国名の一つ栴檀に基づく。栴檀はサンスクリット語のチャンダナchandanaに由来する。ただし、ビャクダンの双葉には香気がない。諺は、仏典の『観仏三昧経(かんぶつざんまいきょう)』の「栴檀、伊蘭草(いらんそう)(ヒマ)中に生じ、まだ双葉にならぬうちは発香せず……わずかに木とならんと欲し香気まさに盛んなり」が誤って伝えられたためと考えられる。
[湯浅浩史 2021年2月17日]