日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
フィアット・クライスラー・オートモービルズ
ふぃあっとくらいすらーおーともーびるず
Fiat Chrysler Automobiles
イタリアのフィアット社とアメリカのクライスラー社が経営統合してできた自動車会社。2014年から2021年まで存在した。英語の頭文字からとった略称はFCA。新車販売台数で世界トップ10(発足時は世界7位)に入る自動車会社だったが、2021年にフランスの自動車大手グループPSA(旧、PSAプジョー・シトロエン)と経営統合し、世界4位の自動車グループ、ステランティスとなった。
2009年、フィアットはリーマン・ショックの影響で経営破綻(はたん)したクライスラー社に20%を出資し、人的・技術的な支援に乗り出した。2014年にはフィアットがクライスラーの全株式を取得して傘下に収め、経営統合してフィアット・クライスラー・オートモービルズが発足した。主要車種ブランドとしてアバルト、アルファ・ロメオ、クライスラー、ダッジ、フィアット、フェラーリ、ジープ、ランチア、ラム・トラックス、マセラーティなどがあり、傘下に部品のモパー、軽金属・鋳鉄のテクシド、製造システムのコマウなどを抱えていた。世界に100を超える工場と、40以上の研究センターを保有し、ヨーロッパと北米市場に強かった。登記上の本社はオランダのアムステルダムで、実質的な本社機能(税務上の本社機能を含む)はイギリスのロンドンであった。2019年の世界新車販売台数は441万台で世界8位。売上高は1081億8700万ユーロ(13兆1900億円)、最終利益は27億ユーロ(約3200億円)、従業員は約19万2000人であった。
[矢野 武 2021年7月16日]
フィアット
ジョヴァンニ・アニェッリGiovanni Agnelli(1866―1945)らが1899年、イタリアのトリノで創業。社名は「トリノのイタリア自動車製造所Fabbrica Italiana Automobili Torino」の頭文字をとってFIATとした。「フィアット、陸に、海に、空に」の標語の下、自動車のほか、鉄道車両、船舶、航空機、新聞、金融、サッカークラブの経営などに事業を拡大した。ジョヴァンニの孫ジャンニGiovanni Carlo Francesco Agnelli(1921―2003)の社長就任以降、買収攻勢をかけ、フェラーリ(1969年)、ランチア(1969年)、アバルト(1971年)、アルファ・ロメオ(1986年)を傘下に収めた。だが石油ショック、労働争議の激化、日本車攻勢などで2000年代前半まで厳しい経営状態が続いた。2005年以降人気車投入などで経営状況が改善し、2009年にクライスラー支援に乗り出して北米市場に進出し、2014年にFCAとなった。創業以来、アニェッリ家が大株主。
[矢野 武 2021年7月16日]
クライスラー
ゼネラル・モーターズ(GM)副社長などを務めたウォルター・クライスラーWalter Percy Chrysler(1875―1940)が1925年に創業。代表車種プリムス、上級車種デソート、ダッジ(1928年にダッジ・ブラザーズ買収)などのブランドをそろえ、振動抑制のフローティングマウント(1931年)や油圧式パワーステアリング(1951年)などの先進技術を相次いで導入し、GM、フォードと並ぶビッグ3の座を獲得した。しかし石油ショックや日本、ドイツなどの小型車攻勢で、大型車に依存したクライスラーは経営不安に陥った。1978年にフォード社長だったリー・アイアコッカLee Iacocca(1924―2019)が社長につき、「ジープ」ブランドをもつアメリカン・モーターズ(AMC)を買収するなど一時再建を果たしたが、1998年にドイツのダイムラー・ベンツの傘下に入ってダイムラークライスラー・AGとなった。2007年、投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントに買収された後、リーマン・ショックの直撃で2009年に連邦倒産法適用を申請し、2014年にフィアット傘下に入った。
[矢野 武 2021年7月16日]