フッ化硫黄(読み)フッカイオウ

化学辞典 第2版 「フッ化硫黄」の解説

フッ化硫黄
フッカイオウ
sulfur fluoride

S2F2(2種類),SF2,S2F4,SF4,S2F10,SF6,そのほかにジフルオロポリスルファンF-Sn-Fがある.【】二フッ化二硫黄(disulfur difluoride):S2F2(102.13).ジフルオロジスルファン(difluoro disulfane);F-S-S-F.フッ化銀またはフッ化水銀(Ⅱ)HgF2と硫黄を約120 ℃,低圧下で反応させると得られる.室温無色気体.密度1.5 g cm-3(-100 ℃).融点約-133 ℃,沸点15 ℃.不安定で,フッ化アルカリの存在下で異性化して二フッ化チオチオニル(thiothionyl fluoride)S=SF2にかわる.二フッ化チオチオニルは融点-165 ℃,沸点-10.6 ℃.250 ℃ までは安定であるが,それ以上ではSとSF4に不均化する.アルカリ性水溶液では,硫黄とチオ硫酸塩に,酸性水溶液では各種のオキソ酸塩になる.[CAS 16860-99-4]【】二フッ化硫黄(monosulfur difluoride):SF2(70.06).フッ化カリウムと二塩化硫黄SCl2の反応で得られる.無色の気体.きわめて不安定で,希釈した気体でのみ存在する.不均化して,S2F2とSF4になりやすい.高温では金属と反応してフッ化物と硫化物をつくる.[CAS 13814-25-0]【】四フッ化二硫黄(disulfur tetrafluoride):S2F4(140.13).約150 ℃ でフッ化水銀(Ⅱ)と二塩化硫黄とを反応させるとSF2とともに生成する.HFと反応してS2F2とSF4になる.高温で金属と反応してフッ化物,硫化物をつくる.[CAS 27245-05-2]【】四フッ化硫黄(monosulfur tetrafluoride):SF4(108.06).薄膜状の硫黄とフッ素との反応,三フッ化塩素ClF3などのフッ素化剤と硫黄との反応で得られる.気体分子は三方両すい型.密度1.92 g cm-3(-73 ℃).融点-121 ℃,沸点-38 ℃.ガラスを侵す.湿気があると加水分解してSO2とHFになる.フッ素化剤として作用する.[CAS 7783-60-0]【】十フッ化二硫黄(disulfur decafluoride):S2F10(254.12).SF6合成の際に副生する.室温では,無色の液体.底面中心にSが位置する正方すい型の2個の F5 が,S-S結合で結ばれている.密度2.08 g cm-3(0 ℃).S-S約2.21 Å,S-F約1.56 Å.∠F-S-F約90°.融点-52.7 ℃,沸点30 ℃.反応性は大きいが,加水分解はしにくい.熱すると約150 ℃ でSF6とSF4になる.[CAS 5714-22-7]【】六フッ化硫黄(sulfur hexafluoride):SF6(146.05).粉末状の硫黄とフッ素との反応で得られる.無色,無臭の重い気体(空気に対して比重が約5).S中心に6個のF原子が結合した正八面体型構造.S-F約1.56 Å.融点-50.8 ℃.ただし,常圧では昇華(-63.8 ℃)する.500 ℃ に加熱しても分解しない.固体には2種類あり,転移点は-178 ℃.水に難溶,アルコール類に微溶.化学的にも熱的にも安定である.溶融したNaOH,クロム酸塩などとも反応しない.ハロゲン,O2,H2,Mg,HCl,NH3などと加熱しても反応しない.融点以下ではNaとも反応しない.H2SではHFとSになる.高い電気絶縁性がある.耐熱,不燃,非腐食性,電気絶縁性を利用した素材となる.気体状の絶縁材として,変圧器避雷器粒子加速器,高周波回路,電子工業部品,電子捕そく剤,冷媒などに用いられる.[CAS 2551-62-4]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「フッ化硫黄」の意味・わかりやすい解説

フッ(弗)化硫黄 (ふっかいおう)
sulfur fluoride

フッ素と硫黄の化合物で,化学式S2F2,SF4,SF6,S2F10の4種が知られている。

化学式S2F2。一フッ化硫黄ともいう。真空中でフッ化銀AgFと過剰の硫黄を加熱して反応させると得られる。安定で収量の多いのが,揮発性のF2S=Sであり,融点-133℃,沸点-10.6℃,無色の気体。ほかにF-S-S-Fの構造をもつ異性体も生ずる。

化学式SF4。アセトニトリル中でSCl2とNaFを反応させると得られる。融点-121℃,沸点-40℃,無色気体。きわめて反応性に富み,-C=O基,-P=O基,-COOH基,および-PO(O)H基をそれぞれ-CF2,-PF2,-CF3,-PF3に変換する。また水とは瞬間的に反応して分解しSO2とHFを与える。

化学式SF6。硫黄とフッ素を加熱しながら直接反応させて得られる。二酸化硫黄とフッ素を加熱しても生成する。融点-50.8℃(加圧下),昇華温度-63.5℃の無色気体。硫黄を中心とする八面体形分子。熱的にきわめて安定であり,化学的にも不活性で絶縁耐圧が高いので高圧電気系の気体絶縁体として用いられる。

化学式S2F10。次式に示す光化学反応によって得られる。融点-92℃,沸点約29℃の揮発性液体。

 2SF5Cl+H2⇄S2F10+2HCl

きわめて毒性が強い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フッ化硫黄」の意味・わかりやすい解説

フッ化硫黄
ふっかいおう
sulfur fluoride

硫黄とフッ素の化合物。次の6種が普通に知られている。

(1)六フッ化硫黄 高温で硫黄にフッ素を直接反応させると、主生成物六フッ化硫黄のほかに低級フッ化物(四フッ化物、五フッ化物)が生成するので、熱分解、アルカリ洗浄、蒸留などにより不純物を除いて六フッ化硫黄が得られる。無色無臭の気体。気体分子は硫黄原子を中心とする正八面体構造。熱的に安定で、化学的にも不活性。水に難溶。エタノール(エチルアルコール)に溶ける。耐熱性、不燃性、非腐食性、電気的絶縁性がきわめて優れているため、気体絶縁材として変圧器、遮断器、粒子加速器などに用いられるほか、トレーサーガス、エッチング剤としても利用される。

(2)十フッ化二硫黄(五フッ化硫黄) 化学式S2F10、式量254.1。硫黄とフッ素との反応生成物から、分別蒸留によって六フッ化物から分離される。無色の揮発性液体。融点-52.7℃、沸点30℃、比重2.08。気体ではF5S-SF5の構造をもつ分子が存在する。熱すると六フッ化硫黄と四フッ化硫黄に分解する。有毒。

(3)四フッ化硫黄 化学式SF4、式量108.1。アセトニトリル中70~80℃で二塩化硫黄とフッ化ナトリウムを反応させて得られる無色の気体。融点-121℃、沸点-38℃、比重1.919(200K)、2.348(-188℃)。アルカリ性水溶液により加水分解する。反応性が高く、フッ素化剤となる。

(4)四フッ化二硫黄 化学式S2F4、式量140.1。二塩化硫黄SCl2とフッ化水銀(Ⅱ)HgF2とを加熱反応させて得られる。F3S-SFのような構造であることがわかっている。

(5)二フッ化硫黄 化学式SF2、式量70.1。一フッ化硫黄を熱して得られる無色の気体。きわめて不安定。

(6)二フッ化二硫黄(一フッ化硫黄) 化学式S2F2、式量102.1。フッ化銀に過剰の硫黄を加えて、真空中で熱して得られる無色の気体。ジフルオロジスルファンFSSFとチオチオニル二フッ化物SSF2とがある。FSSFは融点-133℃、沸点15℃、比重1.5(-100℃)。SSF2は融点-164.6℃、沸点-10.6℃。

[守永健一・中原勝儼]


フッ化硫黄(データノート)
ふっかいおうでーたのーと

フッ化硫黄
六フッ化硫黄
  SF6
 式量   146.1
 融点   -50.5℃
 沸点   -
 比重   液体,1.88(測定温度-50.8℃)
 昇華温度 -63.8℃
 臨界温度 54℃

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フッ化硫黄」の意味・わかりやすい解説

フッ化硫黄
フッかいおう
sulfur fluoride

一フッ化硫黄 S2F2 ,二フッ化硫黄 SF2 ,四フッ化硫黄 SF4 ,五フッ化硫黄 S2F10 ,六フッ化硫黄 SF6 の5種の化合物が知られており,S2F10 以外はすべて無色の気体。六フッ化硫黄が最も一般的で,フッ化水素ガスをニッケル製のパイプの中に入れ,そのガス中で加熱した硫黄と反応させてつくった無色無臭の気体。融点-50.8℃,比重 5.107 (空気=1) 。フロンガスよりも電気特性がすぐれ,高圧下で用いると絶縁オイルに近い絶縁耐力があり,耐熱性,耐腐食性に富んでいるので,電気絶縁用気体として一般に使用される。

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