フリーデル‐クラフツ反応(読み)ふりーでるくらふつはんのう(英語表記)Friedel-Crafts reaction

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フリーデル‐クラフツ反応
ふりーでるくらふつはんのう
Friedel-Crafts reaction

ベンゼンなどの芳香環を、無水塩化アルミニウムの存在下でハロゲン化アルキルによりアルキル化する反応(式(1))、およびハロゲン化アシルによりアシル化する反応(式(2))をいう。有機合成化学のきわめて重要な反応の一つ。


 1877年にフランスのフリーデルとその共同研究者であるアメリカのクラフツJames Mason Crafts(1839―1917)が、ペンテンを得る目的で、ベンゼン溶液中で塩化ペンチルに塩化アルミニウムを作用させたところ、ベンゼンの芳香環のアルキル化がおこってペンチルベンゼンが生成することをみいだした。2人はこのアルキル化反応の研究を進め、芳香環をアルキル化する一般的方法を確立した。この反応を拡張して、塩化アルミニウムの存在下でベンゼンと塩化アセチルとを反応させてアセトフェノンを合成するアセチル化反応にも成功し、多くのアシル化反応に応用した。

 塩化アルミニウムのほかに、臭化アルミニウム、塩化スズ(Ⅳ)、フッ化アンチモン(Ⅴ)、フッ化ホウ素、塩化亜鉛などのルイス酸(アメリカの物理化学者G・N・ルイスの定義した酸)や濃硫酸ポリリン酸などのプロトン酸が触媒として有効である。アルキル化試薬にはハロゲン化アルキルのほかオレフィンアルコールエステルが用いられ、アシル化試薬にはカルボン酸無水物も用いられる。反応機構は、ルイス酸により生成する炭素陽イオンあるいはアシル陽イオンによる芳香環の求電子置換であり、アルキル化では二つ以上のアルキル置換の可能性があるが、アシル化の場合にはアシル基が一つ入ると芳香環が不活性化されて反応しにくくなるので、アシル基は一つしか入らない。芳香環以外にオレフィンの二重結合でも塩化アルミニウムによる求電子置換がおこり、ルイス酸によるオレフィンの重合も広義にはこの反応に属する。

[湯川泰秀・廣田 穰 2015年7月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

フリーデル=クラフツ反応
フリーデル=クラフツはんのう
FriedelCrafts reaction

芳香族化合物に,塩化アルミニウムなどのルイス酸を触媒として,ハロゲン化アルキル,アルコール,ハロゲン化アシル,あるいは酸無水物を作用させて,アルキル化あるいはアシル化を行う反応。 C.フリーデルと J.クラフツによって発見された (1877) 。有機化学,有機合成工業に広く応用されている。たとえば,ベンゼンに無水塩化アルミニウムを触媒として臭化プロピルを反応させるとクメンが,また無水酢酸あるいは塩化アセチルを作用させるとアセトフェノンが得られる。ハロゲン化アルキルの代りにオレフィンあるいはアルコールを用いて芳香環にアルキル基を導入することもある。たとえば,ベンゼンとプロピレンによるクメン合成,ベンゼンとエチレンによるエチルベンゼン合成などがある。

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