知恵蔵 「フリードリヒ・ニーチェ」の解説
フリードリヒ・ニーチェ
ニーチェ哲学の根幹は、ギリシャ哲学・キリスト教の誕生から続く西洋の伝統的な人間観を真っ向から否定し、異なる人間観を打ち立てたこと。キリスト教に神が存在するように、西洋では、変化し続ける現実とは別に真実が存在し、それを普遍的なものとして啓蒙(けいもう)するという思想が、長い間支配的であった。キリスト教では絶対的な神が存在し、現実は価値のないものである。生きる喜びは否定され、人々には神のための禁欲的な生活が求められていた。ニーチェはこうした人間観を否定。「神は死んだ」と高らかに宣言して真実の存在を否定し、現実が唯一の存在であるとした。生そのものや生命にとって根源的な欲求に光をあて、それを肯定した。芸術家のように、価値は自らが創造しなければならないと主張した。
ニーチェの著作は、専門的な用語を多用して、学術的な体裁で執筆される多くの哲学書とは異なる。詩的な表現で文章を構成しており、文章自体が芸術的であり、ニーチェの発する言葉そのものに魅了される人も少なくない。広く一般的に受け入れられやすい哲学者の1人であるとも言える。数多くの著作から選別された言葉を一冊にまとめた『超訳ニーチェの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン、2010年1月12日初版)は、数多くのメディアに取り上げられた他、著名人も愛読するなど、人気を博し、発売5カ月で50万部の売上を記録した。
(西山和敏 ライター / 2010年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報