日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペテーフィ」の意味・わかりやすい解説
ペテーフィ
ぺてーふぃ
Petőfi Sándor
(1823―1849)
ハンガリーの詩人。小商人の息子として生まれ、教育熱心な父の方針により各地の学校を転々としたが、やがて旅役者の一座に身を投じた。短い軍隊生活ののち復学するが、家の没落などでふたたび旅の一座に加わり、ハンガリー平原を放浪する。この間の作品を、詩人のベレシュマルティの援助で『詩集』(1844)として発表、民衆のなかで学んだ素朴な民謡風の詩は多くの人の心をとらえ、一躍文名をはせた。『アルフェルド』(1844)など郷里のハンガリー平原と家族への思いを歌った詩や、のちに妻となる女性を歌った『九月の終りに』(1847)などの恋愛詩は比類ない叙情詩として人々に愛された。また、保守主義者を風刺した『パトー・パールさん』(1847)などの作品、さらにハプスブルク政権に抗議する『王たちを絞首台に!』(1848)などの詩を発表。民族的自由を渇望するこれらの詩は、当時のハンガリーの民族意識の高揚の機運と相まって、彼の人気は真に国民的なものとなった。独立戦争のきっかけをなした1848年3月15日のブダペスト市民蜂起(ほうき)の際、彼は自作の詩『起て、マジャル人!』を市民の前で朗読し、独立戦争に参加したが、翌年の敗戦直前、シェゲシュバール付近の戦場で倒れた。ときに26歳。ほかに民話風の長編叙事詩『勇士ヤーノシュ』(1844)が有名であり、現在もオペレッタとして上演されている。
[岩崎悦子]