日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブエロ・バリェッホ」の意味・わかりやすい解説
ブエロ・バリェッホ
ぶえろばりぇっほ
Antonio Buero Vallejo
(1916―2000)
スペインの劇作家。グアダラハラ出身。画家を志していたが、内戦のため美術学校での学業を中断した。共和派兵士として参戦したが、捕らえられ6年間の獄中生活を余儀なくされた。自由回復後、劇作に励み次々と作品を発表した。初の成功作『ある階段の物語』(1949)は安アパートの階段を舞台に、内戦後の荒廃した庶民生活を描いた写実劇。その後、盲人たちの悲劇『燃える闇(やみ)の中で』(1950)、ギリシア神話が素材の象徴劇『夢を織る女』(1952)、1770年代のパリが舞台の『サン・オビディオ演奏会』(1962)、内戦で引き裂かれた家族の物語『採光窓』(1967)などの作品により劇作家としての地位を固めていった。注目すべき作品として、実在の人物を主人公にした一連の史劇があり、18世紀の政治家エスキラーチェの失策を扱った『ある政治家の夢想』(1958)や、「ベラスケスの幻想」と副題された『宮廷の侍女たち(ラス・メニーナス)』(1960)、1820年代のスペイン社会を背景にゴヤを主人公にした『理性の眠り』(1970)などがある。これら一連の作品は細部の性格描写に優れており、そこに深い問題意識が加わることにより重厚な作品に仕上がっている。フランコの死直前の、政治犯があふれた監獄の実態を描いた『施設』(1974)は、その技法の斬新(ざんしん)さで、それまでブエロ・バリェッホに無関心だった新しい世代の劇作家たちをひきつけた。最後の作品『荒廃した村への使節』(1999)では、失われたエル・グレコの絵画を取り戻すことによってスペインの全体性の復活と和解を示唆している。内戦の記憶が前面に出た唯一の作品でもある。このため、この作品を作者の遺言とみなす人もいる。その前に書かれた『偶然のわな』(1994)は、芸術を救済として提示し、『荒廃した村への使節』とともに芸術擁護論をテーマにしている。
[菅 愛子・野々山真輝帆]
『ミゲール・ミウラ、アントニオ・ブエロ・バリェッホ、アルフォンソ・サストレ著、佐竹謙一編訳『現代スペイン演劇選集――フランコの時代にみる新しいスペイン演劇の試み』(1994・水声社)』▽『ESTRENO, Revista Semestral de Teatro español contemporáneo. Vol.XXVII, No.1(2001, Ohio Wesleyan University)』▽『INSULA 601-602, Teatro español ante el fin del siglo, enero-Febrero, 1997, Madrid』