日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘラサギ」の意味・わかりやすい解説
ヘラサギ
へらさぎ / 篦鷺
spoonbill
広義には鳥綱コウノトリ目トキ科ヘラサギ亜科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この亜科はヘラサギ属Plataleaの5種からなり、旧世界の大部分と熱帯アメリカに広く分布している。いずれも名の由来であるへら状の嘴(くちばし)をもち、4種は白色の渉禽(しょうきん)であるが、熱帯アメリカに分布するベニヘラサギP. ajajaは全身桃赤色の美しい鳥である。日本には種のヘラサギのほかに、クロツラヘラサギP. minorがまれな冬鳥として渡来する。
種としてのヘラサギP. leucorodiaは全長約86センチメートル。全身白色で、雌雄は同色、生殖羽では後頭に冠羽があり、上胸が淡黄色を帯びている。嘴は汚れた黄色、足は黒い。ヨーロッパから沿海州およびインドにかけて分布する。一般に留鳥であるが、温帯で繁殖するものは、冬期はアフリカ、インド、中国南部に渡る。日本には冬鳥としておもに九州に渡来するが、数は少ない。越冬地では水田、湿地、干潟などにすみ、水生昆虫、小魚、小形の甲殻類や貝類などを食べている。少なくとも冬期には、鳴くことはほとんどない。繁殖は群集して行い、多くの場合サギ類の集団といっしょになって水辺の樹上に営巣する。しかし、ヨーロッパでは葦原(あしはら)の地上に営巣することが多い。1腹の卵は普通4個、抱卵期間は約21日である。
[森岡弘之]