改訂新版 世界大百科事典 「ホアビン文化」の意味・わかりやすい解説
ホアビン文化 (ホアビンぶんか)
インドシナ半島を中心に,中国南部から島嶼(とうしよ)部に広がる石器時代文化。ベトナム北部,ハノイ南西のホアビンHoa Binh地方の石灰岩洞窟多数を,1926-29年にフランスの考古学者コラニM.Colani(1866-1943)が調査し,その出土品によって命名された。石器加工技術は旧石器的であるが,沖積世になっての産物とされ,中石器時代または新石器時代初期と考えられることが多い。石器は礫または礫片を原材とした打製石器で,片面加工の傾向が強い。川原石を打ち割ってその片面(内面)だけを加工し,全周縁に刃部をつけた楕円形の石器は,スマトラ島に多く見られたことからスマトラリスSumatralithと称される。ショート・アックス(短斧)はベトナムに多く,その他,砥石,凹石,骨角器などがある。尖頭器類が発達しないことも特徴的であり,これらは木や竹でまにあったためと解されている。刃部磨製の石斧も存在し,土器は一般に伴出しない。
遺跡は山地の洞窟と海岸の貝塚に大別され,洞窟で淡水産の貝塚を伴うことも多い。石器などを編年する考えもあるが,石器の形態的発展過程のみでは困難である。ホアビン文化は一つの文化というには地域的・時間的な広がりが大きすぎ,むしろ技術的伝統とでもいうべきだとする考えも強い。年代は前約1万年から前5000年とされるが,一部では後代まで継続した可能性がある。なお,スピリット洞窟での栽培植物の発見と農耕の存在に関しては,多くの疑問が提出されている。現状ではホアビン文化は採集狩猟段階と考えるほうが妥当であろう。著名な遺跡としてはサオドンSao Dong洞窟(ベトナム),グアチャGua Cha岩陰(マレーシア),オングバOngba洞窟(タイ),パダリンPadah-lin洞窟(ミャンマー),ラーンスペアンLaan Spean(カンボジア)などがある。
執筆者:重松 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報