日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホアビン文化」の意味・わかりやすい解説
ホアビン文化
ほあびんぶんか
東南アジア完新世(沖積世)初頭、中石器時代または前期新石器時代とされる文化。ベトナム、ハノイ南西のホアビンHoa-binh省(現ハソンビン省)の石灰岩山地で1920年代に数十か所の遺跡の発掘を行ったフランスのコラニM. Colaniが明らかにした文化で、彼女はこの文化を三期に区分している。その後、東南アジア大陸部を中心に多数の遺跡が発見・調査された。その多くは洞窟(どうくつ)・岩陰遺跡で、淡水産の貝の層を伴うものが多いが、スマトラ島には海産貝の大貝塚も存在する。
石器の多くは、手ごろな礫(れき)を打ち欠いて刃をつけた礫器(れっき)、礫斧(れきふ)で、一端を研磨して刃をつけた原始的な磨製石斧、凹石(くぼみいし)、砥石(といし)、骨角器も存在する。いくつかの遺跡で土器片の出土も報告されているが、確実な伴出例はないといってよい。狩猟、採集経済の段階にあったとするのが定説であるが、一部には原始的農耕の存在も主張されている。
[今村啓爾]