地質時代区分の一つ。完新世Holocene,あるいは現世Recentと同義である。第四紀を2分した後期の時代で,約1万年前から現在までを含んでいる。沖積世は1823年にバックランドW.Bucklandにより,丘陵・台地に対して河谷ぞいの低地の形成時代に命名されたものである。
自然史の上では,最終氷期のあとの後氷期という時代である。そのはじまりは大陸氷河が消失する時期を基準にしている。北ヨーロッパではスカンジナビア氷床がヘルシンキ付近やオスロ付近などに巨大な終堆石を残した時期が基準とされている。その時期は,第8回国際第四紀学連合の会議(1969)の勧告によって,デンマークの花粉分帯できめられる。デンマークでは,氷床から解放されたあとにできた湖沼堆積物によって,最終氷期の最後の極相以降,現在までを10(Ⅰ~Ⅹ)花粉帯に区分している。そのうちⅢとⅣの境界が気候の暖化の時期にあたっているので,それが指標になる。また,それは北ヨーロッパの泥炭層の植物遺体にもとづく気候編年上,チョウノスケソウ属Dryasを含むツンドラ植生に代表される新ドリアス期と,マツ,カンバの植生の先ボレアル期との境界にあたる。それは後氷期の高温期であるアトランティック期のナラ,ニレの森林へ転化している。
文化史の上では,現代人の発展の時代であり,沖積世初頭は細石器を主体とした中石器文化の時代である。デンマークのシェラン島北岸のマグレモーゼ文化も細石器文化であるが,森林の北上と湖沼の増加という後氷期の自然環境を反映して,打製石斧と骨角製釣針が特徴的である。中石器文化は,土器と磨製石器をともなう農耕,牧畜の生産経済である新石器時代,さらに金属器時代へ移行する。
最終氷期以降の海進は日本では有楽町海進といわれるが,それは日本各地の海岸平野,内湾,瀬戸内海のような内海,および日本周辺の海峡を完成した。温暖化の傾向はまた,西南日本のカシ,シイなどの温暖照葉樹林の拡大,東北地方から北海道にかけてのコナラ,ブナなど冷温帯落葉広葉樹林の復活をもたらした。逆に,ライチョウ,ナキウサギ,多くの高山チョウや高山植物などは,氷期の遺存種として高山や高緯度地域へ移住している。めだった動物の変化には,オオヤマネコとオオツノシカが沖積世初頭に絶滅し,またイノシシが急増したことである。イノシシは縄文時代の狩猟対象として,遺跡からもその増加が知られる。また,日本では中石器文化は縄文草創期といわれ,細石器を主体にするが,ヨーロッパに先行して土器がともなわれている特徴がある。縄文文化は土器の出土層位とその型式から早期,前期,中期,後期,晩期に区分され,貝塚の分布から縄文海進の最大海進期は縄文前期とされている。縄文文化は,つぎの農耕を主体とした弥生文化に,まず西日本から交代していく。
→地質時代
執筆者:新堀 友行
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…新生代の第三紀の後につづく紀で,地質時代の最後の紀である。第四紀はさらに氷河時代の更新世(洪積世)と後氷期の完新世(沖積世)に区分され,全体が約200万年前から現在までを含む時代である。なお,慣用的に〈だいよんき〉と読まれるが,正しくは〈だいしき〉と読む。…
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