法律に違反すること。より実質的には,法律に示された命令・禁止に違反することにより生ずる法的なマイナス評価である。その評価の前提には,いかなる利益を法律を用いてまで保全していくべきかという,その国・社会の価値判断が存在する。宗教や道徳上の規範違反と異なり,違法性のある行為には,損害賠償や刑罰等の法律上の効果が発生する。ただし,形式上は違法な行為でも,それが正当防衛として行われた場合等,正当化する特別の事由があった場合には,この効果は生じない。この事由を違法性阻却(正当化)事由という。
刑法上の違法行為には刑罰という厳しい制裁が加えられるため,他の法領域とは異質の違法性が要求される(可罰的違法性)。そして,どのような行為が刑法上違法であるかは,あらかじめ国民の前に明示されねばならない(罪刑法定主義)。それゆえ,制定法に類型的に規定された個々の犯罪の構成要件に該当する行為のみが違法性を有する。そして,医師の手術行為やプロボクシングのような正当業務行為や警察官による逮捕行為のような法令に基づく行為(35条),正当防衛(36条),緊急避難(37条),自救行為(自力救済)に代表される超法規的な違法性阻却事由にあてはまる場合には違法性が阻却される。このような形式的な違法性の理解についての異論は少ないが,実質的な違法性の内容については激しい理論的対立がある。まず第1の対立は,違法性判断の対象を,客観的に明らかになった行為および結果に限定するか被告人の主観的事情にまで広げるか,という点である。従来の客観的違法論対主観的違法論の対立の実質中心はここにあった。そして,最近よく用いられる結果無価値論対行為無価値論の対立も,前者が客観的な結果を違法性判断の中心に据えるのに対し,後者は内心を中心とした行為態様を違法性判断の中心に置くという点で,事実上,従来の対立と重なるものといえよう。次に,第2の対立は,いかなる利益の侵害を刑法上の違法と評価するかに関するもので,一方は客観的,具体的な生活利益の侵害に限って違法だとするのに対し,他方は社会・倫理秩序に反する行為こそが違法だとする。たとえば,わいせつ物を販売する行為などは,前者の立場からは客観的な被害が存在せず刑法上の違法が否定されることになるが,後者の立場からは十分違法なものと評価される。そして第3に,より具体的にいかなる利益を重視するかという評価の対立である。労働争議行為は正当行為(刑法35条)とされるが,その際の実力行為がどこまで正当化されるかは,労働者の権利・利益と,実力行為によって害される身体・自由・財産等の利益の,いずれかをどれだけ重視するかによって決定される。このように,刑法上の違法性は,犯罪理論の構成の仕方以上に,その時代の価値意識を反映するものなのである。
→犯罪
執筆者:前田 雅英
民法では,違法性を帯びる行為や状態に対しては,法的効果の否定(たとえば,公序良俗・強行法規違反を理由とする法律行為の無効),適法状態への回復義務の発生(たとえば,原状回復義務,不当利得返還義務の発生),損害賠償責任の発生,といった制裁が加えられる。違法性の有無の判断がどのようになされるかは,一概にいうことはできないが,不法行為を理由とする損害賠償請求権の発生する場合についていうならば,あの行為または状態の発生態様・経緯とそれらの行為または状態によってもたらされた結果とを相関的に考慮して,法がそれを許容するかどうかによって違法性の有無が判断される。なお,民事においても,抽象的,客観的にみて違法性を帯びる行為や状態であっても,具体的ケースにおいて違法性阻却事由(たとえば,被害者の同意,正当防衛など)があれば,違法性が否定されることもある。
執筆者:新美 育文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 刑法上,狭義に責任という場合,それは,犯罪成立要件の一つとしての,犯罪行為と犯罪者の意思との間の関連を意味する。ある行為が犯罪を構成するためには,それが刑罰法令の一般的に定める犯罪類型にあてはまること(構成要件該当性),実質的な被害を惹起していて正当化されないこと(違法性),そして当該行為が行為者の意思に基づくものとして行為者に帰属し,かつ,その意思形成をなしたことが非難可能であること(有責性)を要するが,この3番目の要件が責任である。換言すれば,責任とは違法な行為をなしたことに対して行為者に加えられる非難である。…
… そして,刑法学においては,犯罪の一般的成立要件を検討するとき,〈犯罪〉を定義して,通常,〈構成要件に該当する違法で有責な行為である〉という。すなわち,犯罪は構成要件該当性,違法性,有責性という要素をそなえた行為であると理解するのである。このような3要素に分けて,しかも上記の順序で犯罪の一般的成立要件を検討するのは,犯罪の認定をできるだけ慎重かつ精確にするとともに,犯罪の法的構造を的確に把握するためである。…
…いずれにしても各国の立場の決定は,法規範の創造に裁判所がどのように関与するかといった機能分担のあり方にも関係しつつ,各国の歴史的事情の影響のもとに行われたものである。
[要件]
支配的な学説によれば,(1)行為の違法性,(2)行為と相当因果関係(〈因果関係〉の項参照)にある損害の発生,(3)加害行為者の故意または過失,(4)加害行為者の責任能力という四つの点(要件)が充足されれば不法行為が成立し,被害者に損害賠償請求権が与えられる(効果)。行為の違法性という要件は,民法709条の〈他人ノ権利ヲ侵害〉という文言を不法行為の成立要件としては限定的すぎるとして解釈により拡張したものである。…
※「違法性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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