翻訳|reprisal
国際法上の違法行為に対する自力救済として,相手国の違法行為によって被る苦痛または損害とほぼ同程度の苦痛または損害を相手国に対して強制手段を用いて加えることをいう。平時復仇と戦時復仇とに大別される。復仇行為は自力救済行為であって,公の救済制度が確立している国内社会では原則として禁止されているが,そのような制度が存在しない国際社会においては,本来的には国際違法行為を構成する行為であっても,復仇が国家によって個別的に相手国の違法行為に対する自力救済として行われる場合には,その違法性が阻却されるのである。復仇行為の違法性阻却事由としては,何よりも相手国の側に違法行為が存在しなければならず,たんに不当な行為だけでは十分でない。この点が復仇と報復retortionとが異なる点である。
報復は,相手国が自国の利益を害し,または友誼・礼譲に反する行為であって国際法違反を構成しない行為をなした場合に,相手国の利益を害するそれと同程度の行為をもって報いることをいう。報復は,相手国の行為も,それに対する自国の行為も,もともと国際法に反するものではなく,それに関する国際法規も存在せず,すべて国家の政策の問題とされる。報復の例として,1885年に,ビスマルクがロシアの不当な輸入関税政策に対抗して,ライヒス・バンク(国立銀行)に対してロシア国債を担保として融資することを禁止したことを挙げることができる。
これに対し,復仇は国際慣習として制度化され,一定の要件がある。第1に,復仇は相手国の国際違法行為を前提とする。その国際違法行為は国家機関による作為または不作為でなければならない。私人の行為によって国際法に違反する事態が生じる場合には,国家機関がそれを適切に防止しなかったときに,復仇が成立しうる。第2に,復仇は違法行為の中止あるいは救済のために行われることを要し,相手国が違法行為を中止しまたは適当な救済を与えたときは,復仇行為をただちに中止しなければならない。第3に,復仇行為は相手国の違法行為と対等な行為でなければならない。対等な行為とは,行為の重大性が相当していることであって,必ずしも同種の行為であることを要しない。復仇の具体的な手段には,相手国との条約履行停止,相手国の船舶の拿捕(だほ)抑留,相手国への物資輸出の禁止または相手国からの輸入品の購入禁止,港湾の封鎖(平時封鎖),領土の占領(平時占領)などがある。しかし,これらのうち,第2次大戦後は国連憲章の下で武力行使が一般的に禁止されているため,復仇として武力を行使すること(平時封鎖や平時占領)は禁止されているといわなければならない。以上はいわゆる平時復仇である。このほか,戦時国際法の違反に対してとられる自力救済措置としての戦時復仇があるが,これについては,戦時の異常な心理状態のもとで悪用される危険があるため,禁止すべきであるという考え方がある。
執筆者:牧田 幸人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
国際法上の違法な行為によって権利を侵害された国家が、加害国に対してその中止・救済を求めるために行う自救行為。このような行為は、本来ならばそれ自体違法なものであっても、その違法性が阻却される。それに対して、国際法上は違法ではなく単に不当な行為に対してその中止を求めて行われるものは、報復retorsionといわれ、復仇とは区別される。報復の場合には、違法行為を用いることはできない。復仇の手段としては、条約の履行停止、相手国国民・船舶・貨物の抑留、平時封鎖、相手国領土の占領などが行われてきたが、現在では武力の行使を伴う復仇は禁止されている。たとえば、1970年に国連総会が採択した友好関係宣言は、「国は、武力の行使を伴う復仇行為を慎む義務を有する」としている。このほか、戦時において敵国の交戦法規違反に対して、その中止を求め、または対抗するために行われる自救行為を、とくに戦時復仇という。このような行為は、本来は交戦法規に違反するものであっても、違法性が阻却される。もっとも現在では、文民、傷病兵、捕虜などを対象とする復仇は禁止されている。
[石本泰雄]
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…このように考えると,中央の統一権力機構を欠く国際法にも強制力が存在し,その意味で国際法はまさしく法であるといえる。 伝統的国際法においては,戦争あるいは復仇という形で強制力が存在した。戦争は,国家間の全面的武力衝突で,復仇は,限定された武力または武力以外の実力行使である。…
※「復仇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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