マサリク(読み)まさりく(英語表記)Tomáš Garrigue Masaryk

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マサリク」の意味・わかりやすい解説

マサリク(Tomáš Garrigue Masaryk)
まさりく
Tomáš Garrigue Masaryk
(1850―1937)

チェコスロバキアの哲学者、社会学者、政治家。初代大統領。スロバキアとの境界に近いモラビア農村に生まれる。父はスロバキア人、母はモラビア生まれである。苦学ののち、1876年にウィーン大学で哲学を修めた。82年にプラハカレル大学に哲学教授として迎えられる。学者としては、ロシア思想研究やまだ新しい学問であった社会学で貢献した。教鞭(きょうべん)をとるかたわらジャーナリズムでも活躍し、90年には青年チェコ党からオーストリア帝国議会の議員となった。のち独自の小政党(現実党)を設立。マサリックは帝国の民主的、連邦的な改革を主張していたが、第一次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)すると西欧に亡命し、E・ベネシュ、R・M・シュチェファーニクらとともにチェコスロバキア民族会議を設立、独立運動を展開した。1918年チェコスロバキア共和国が独立すると、その初代大統領に選出され、新国家の象徴的な存在となった。35年に引退するまで、国民的な人気を背景に、内外政に大きな影響力をもった。とくに議会の中道的な諸勢力の連立を支持し、漸進的な社会改革を唱え、チェコスロバキアの議会制民主主義を擁護した。また国内の民族対立の解決にも努力した。外交面では、ベネシュ外相の対外政策を一貫して支持し、それを内政面から支えた。

[林 忠行]


マサリク(Jan Garrigue Masaryk)
まさりく
Jan Garrigue Masaryk
(1885―1948)

チェコスロバキアの政治家。父は初代大統領T・G・マサリク。1918年チェコスロバキア独立直後に外務省に入る。第二次世界大戦中はロンドン亡命政府に外相として加わる。戦後も国民戦線内閣で外相となり、48年の二月革命(1948)後も非共産党員の閣僚として留任したが、同年3月に自殺。その死因疑問をもつ者もいるが、詳細は不明。

[林 忠行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マサリク」の意味・わかりやすい解説

マサリク
Masaryk, Tomáš Garrigue

[生]1850.3.7. モラビア,ホドニーン
[没]1937.9.14. プラハ近郊ラニ
チェコスロバキアの哲学者,政治家。スロバキア人の御者の子。小学校を出て一時職人の徒弟となったが,教師を望んでブルーノ,ウィーンで学び,1876年ウィーン大学で哲学博士号を獲得。 82年プラハ大学教授。 83年月刊評論誌『アテナエウム』を刊行。 91年青年チェコ党から初めてオーストリア帝国議会に選出された。 93年議員をやめ,同年 10月,月刊評論誌『ナシェ・ドバ』を創刊,レアリストと呼ばれるグループが形成された。 1907年本格的な政治活動を開始。第1次世界大戦勃発を契機に,オーストリア帝国からのチェコスロバキア独立を連合国側に精力的に訴え,その支持を得た。 18年 10月チェコスロバキア初代大統領に選ばれ,35年まで在職。著書は『具体的論理の基礎』 Zakladove Konkretni Logiky (1885) ほか多数。

マサリク
Masaryk, Jan Garrigue

[生]1886.9.14. プラハ
[没]1948.3.10. プラハ
チェコスロバキアの政治家。 T.マサリクの息子。 1907年アメリカに渡ったが,第1次世界大戦の直前にプラハに戻り,大戦中はハンガリー連隊に従軍。 18年チェコスロバキア独立とともに外務省に入り,19年アメリカ駐在代理公使,20年イギリス駐在参事官,21年 E.ベネシュ外相の秘書。 25年以来,イギリス駐在公使として活躍したが,38年9月 30日ミュンヘン協定に抗議して辞職。第2次世界大戦中は,ロンドン亡命政府の外相として,ロンドンから占領下のチェコスロバキアに放送を続け,戦後 45年7月帰国,ベネシュ大統領のもとで外相。 48年2月 25日の共産党のクーデター後もしばらく外相に留任したが,3月 10日死体となって発見された。秘密警察が殺して,外務省の建物から投身自殺したと見せかけたという説が強い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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