マスタバ(その他表記)mastaba

翻訳|mastaba

デジタル大辞泉 「マスタバ」の意味・読み・例文・類語

マスタバ(mastaba)

古代エジプト墳墓地下墓室の上に、長方形台状建造物石積みで築いたもの。個人のもので、古王国時代から中王国時代に盛んに営まれた。

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精選版 日本国語大辞典 「マスタバ」の意味・読み・例文・類語

マスタバ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] mastaba 元来はアラビア語。石の据え付けベンチのこと ) 古代エジプトの墓の一形態。古王国時代の高官たちの石室墳墓。ピラミッドに先行する。外形は腰掛けに似た平面矩形の梯形で、竪穴を掘り、天井を木材でおおい、地上部分は煉瓦(のちには石材)を壇状に積み重ねて、当時の家屋に似せている。東壁面に礼拝用の龕(がん)が作られた。

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改訂新版 世界大百科事典 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ
mastaba

古代エジプトの個人の墳墓。その形状により,アラビア語でマスタバ(〈ベンチ〉の意)といわれる。先王朝時代末期から,とくに古王国時代全般にかけ,さらには後世まで盛んに造られた。ギーザサッカラなどでは,貴族重臣のマスタバが,生前王に仕えていたときと同様,ピラミッドの周囲に整然と配置されている。時代,身分,地方によりその形式,用材などはさまざまであるが,典型的には次の通りである。地上の礼拝堂と地下の埋葬室の二つの部分よりなり,埋葬室は地下の玄室とそれを結ぶ竪坑または階段でできている。竪坑は12~24mに及び,玄室は垂直に掘られた竪坑の下に置かれ,死者あの世で必要とする葬儀用品とともに石棺が安置された。この室は葬儀のあと壁がつくられ,竪坑は土や細石で埋められた。地上の礼拝堂の部分は石材を積み重ねて梯形の長方形(プラットホーム状)につくり,表面を磨いた石灰岩で仕上げた。東側には壁龕(へきがん)が彫られ,ここで葬儀が行われ,故人との交流がなされた。その後東側に入口がつくられ,北東側に擬扉false door(死者と生者を結びつける,礼拝用の扉の形をした龕)が置かれ,小型葬祭室となった。第3王朝の終りころより十字形の室を墓壁内につくるようになり,第4王朝以後では墓内の室は発達し,回廊をもつものも現れ,祀堂の南または北側にセルダーブserdāb(死者の彫像を収めた密室。長方形ないし円形の覗き穴をもつ)がつくられるようになった。死者はここを通じて焼香を受け,供物を受け取ることができた。祀堂は故人の生前の生活に関する浮彫や絵画で飾られ,死後の生活の保障が祈願された。
ピラミッド
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ
ますたば
mastaba

古代エジプトのベンチ形墳墓のこと。上部構造と下部構造(地下部分)とからなり、上部構造は長方形で、側面は上に向かって急勾配(こうばい)の斜面をなし、頂上部は平坦(へいたん)になっている。四隅は東西、南北の方位に沿い、長いほうの軸線は南北に向いている。第1王朝に生まれた墳墓形式で、建造物は当初は日干しれんがであったが、やがて石に移った。第2王朝では規模も設計も精巧なものとなった。王墓の独占形式ではなく、高官の墓もまたこの形式でつくられた。地下構造は死者を納める竪坑(たてこう)、供物を置き祭事を営む祭壇室、死者の彫像を納める特別室(セルダブ)の3要素からなり、壁面にはこの世の生活を描いたレリーフが施された。大型のものには、上部構造が一辺83メートルの長さをもち、地下に58室を備えているものがある。ギザ(ギゼー)には整然と並ぶ一大マスタバ群がある。マスタバは第3王朝の王墓、階段ピラミッドを生み出したのち、高官や貴族の墓の形式として中王国時代まで愛用された。

[酒井傳六]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ
Mastaba

エジプトの初期王朝時代から古王国時代にかけて多数造られた墳墓の一種。地下の墓室の上に長方形で台状の地上建造物があるのが特徴で,一般に日干し煉瓦で造られた。最古のものはサッカラの初期王朝時代のアハ王の墓で,地上部分が広く食物などの貯蔵室となっているが,のちの墓では地下部分が拡張され貯蔵品はそこに納められた。死者の住居として家の機能や構造になぞらえて造られており,いくつもの部屋をもつものが現れた。これらのうちで最も重要な部屋には偽扉と供物台が置かれた。第1王朝期から出現し,第4・第5王朝期に多く築造されたが,ピラミッドが王墓として造られてからは,貴族の墓として長く続いた。サッカラにある第5王朝のティや第6王朝のメレルカのマスタバは,地上部分の内部の壁面に美しい彩色の浮彫があるので有名。なおマスタバという名は,アラビア語でベンチを意味する。

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百科事典マイペディア 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ

古代エジプトの個人用の墳墓。その形状から,アラビア語で〈ベンチ〉を意味する名がつけられた。時代,地方,被葬者によりさまざまだが,平面プランは長方形,煉瓦または石造で,死者はその地下室に葬られた。ギーザやサッカラでは,貴族のマスタバが王のピラミッドを囲んでいる。
→関連項目サッカラ墳墓

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「マスタバ」の解説

マスタバ
Mastaba

低い台状の上部構造を持つ形式のもので,古代エジプトの初期王朝時代の王や高官の墓として築かれた。形状からアラビア語で「ベンチ」を意味するマスタバの名で呼ばれる。古王国時代になっても高官の墓として盛んに造営された。

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世界大百科事典(旧版)内のマスタバの言及

【エジプト美術】より

…墓の上には煉瓦づくりの擁壁をめぐらし,その中に土砂をつめて,ゆるく湾曲した上面をもつ墳丘が造られた。このような長方形の台形の墓をマスタバと呼ぶ。アビドスの王墓では単純なマスタバの前面に1対の石碑と供物台が置かれ,全体を取り囲む周壁がめぐらされていた。…

【殉葬】より

…また殷墟の小屯C区で斬首墓とともに発見された小児墓,武装墓,全身墓などは宗廟の建設に伴うものだから,供犠と考えて犠牲と見る方が妥当であろう。 エジプトでは第1王朝時代のアビドスにある王墓とマスタバから殉葬が見られる。ジェル王大墓には338基,ジェト王大墓には174基の殉葬墓が付属し,ジェト王のサッカラにあるマスタバでは,周りを62基の殉葬墓がとりまいている。…

【帝王陵】より


[王墓と帝王陵]
 帝王陵の名に値する墓として,あるいは大規模な葬送儀礼が行われたことを示す墓として,かつて問題にされた墓を列挙してみよう。応神,仁徳に代表される古代天皇陵,殷の大墓,秦漢帝国以降の帝陵,朝鮮三国時代から新羅統一時代にいたる陵墓,西アジアのウルの王墓とウル第3王朝の陵,ペルシア帝国の王陵,ハリカルナッソスのマウソレウム,エジプトのマスタバやピラミッドなどが著名である。これらの墓は2種類に大別することができる。…

【墓地】より

…英語では,教会付属の墓地をchurchyardとして区別する。
[歴史]
 古代エジプトの初期王朝,古王国時代の貴族の墓は,その形状からマスタバ(アラビア語で〈ベンチ〉の意)と呼ばれる。ほぼ1対2の長方形平面で,長手方向を南北に置き,壁面が内側に傾いているのが特色で,日乾煉瓦造であるため,崩壊しにくい形にしてある。…

※「マスタバ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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