マスタバ(読み)ますたば(英語表記)mastaba

翻訳|mastaba

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ
ますたば
mastaba

古代エジプトベンチ墳墓のこと。上部構造と下部構造(地下部分)とからなり、上部構造は長方形で、側面は上に向かって急勾配(こうばい)の斜面をなし、頂上部は平坦(へいたん)になっている。四隅は東西、南北の方位に沿い、長いほうの軸線は南北に向いている。第1王朝に生まれた墳墓形式で、建造物は当初は日干しれんがであったが、やがて石に移った。第2王朝では規模も設計も精巧なものとなった。王墓の独占形式ではなく、高官の墓もまたこの形式でつくられた。地下構造は死者を納める竪坑(たてこう)、供物を置き祭事を営む祭壇室、死者の彫像を納める特別室(セルダブ)の3要素からなり、壁面にはこの世の生活を描いたレリーフが施された。大型のものには、上部構造が一辺83メートルの長さをもち、地下に58室を備えているものがある。ギザギゼー)には整然と並ぶ一大マスタバ群がある。マスタバは第3王朝の王墓、階段ピラミッドを生み出したのち、高官や貴族の墓の形式として中王国時代まで愛用された。

[酒井傳六]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マスタバ」の意味・わかりやすい解説

マスタバ
Mastaba

エジプトの初期王朝時代から古王国時代にかけて多数造られた墳墓の一種。地下の墓室の上に長方形で台状の地上建造物があるのが特徴で,一般に日干し煉瓦で造られた。最古のものはサッカラの初期王朝時代のアハ王の墓で,地上部分が広く食物などの貯蔵室となっているが,のちの墓では地下部分が拡張され貯蔵品はそこに納められた。死者の住居として家の機能や構造になぞらえて造られており,いくつもの部屋をもつものが現れた。これらのうちで最も重要な部屋には偽扉と供物台が置かれた。第1王朝期から出現し,第4・第5王朝期に多く築造されたが,ピラミッドが王墓として造られてからは,貴族の墓として長く続いた。サッカラにある第5王朝のティや第6王朝のメレルカのマスタバは,地上部分の内部の壁面に美しい彩色の浮彫があるので有名。なおマスタバという名は,アラビア語でベンチを意味する。

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