ミショー(読み)みしょー(英語表記)Henri Michaux

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミショー」の意味・わかりやすい解説

ミショー
みしょー
Henri Michaux
(1899―1984)

フランスの詩人画家ベルギー生まれだが、1955年フランスに帰化した。シュルレアリストと同世代に属し、共通する内的探求を課題としながら、いかなるグループにも属さずに独得の世界開拓した。ロートレアモンの影響下に詩作を始め、外界の不可解な敵意への不安、そこに生きる困難さ、言語への不信感にさいなまれながら、言語に対する大胆な破壊作業を通じて特異なユーモアをたたえた斬新(ざんしん)な表現を生み出すことで、その不安を克服しようとした。その結果、言語は一種の悪魔祓(ばら)いの効用を帯びることになる。海外旅行体験をもとに奇妙な風俗の土地を描いた『エクアドル』(1929)、『アジアの一野蛮人』(1933)などの旅行記、奇怪な幻想に満ちた内的領土を描いた『グランド・ガラバーニュの旅』(1936)、生の困難を戯画化した『プリューム』(1938)などの詩集がある。また、麻酔性をもつメスカリンをはじめとする幻覚剤を用いた内部世界探求の軌跡は『みじめな奇蹟(きせき)』(1955)、『深淵(しんえん)からの認識』(1961)その他の著作や膨大な数のデッサンにみられる。象形文字的な線や飛沫(ひまつ)を中心とするその絵画作品はアンフォルメル絵画の先駆とみなされ、晩年の著作では文章とデッサンが混じり合った例も多い。ほかに詩集『かつての私』(1927)、『試煉(しれん)・悪魔祓い』(1945)など多数の作品がある。

[田中淳一]

『小海永二訳『アンリ・ミショー全集』全三巻(1953・青土社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミショー」の意味・わかりやすい解説

ミショー
Michaux, Henri

[生]1899.5.24. ナムール
[没]1984.10.18. パリ
ベルギー生まれのフランスの詩人,画家。水夫としてアジア,南アメリカを旅し,詩集『私は誰だった』 Qui je fus (1927) ,『わが領土』 Mes propriétés (1929) ,『プリュームという男』 Un certain Plume (1930) ,旅行記『エクアドル』 Equador (1929) ,『アジアにおける一野蛮人』 Un barbare en Asie (1932) などを発表,ジッドに認められ広く紹介された。第2次世界大戦後の作品には,『試練・悪魔祓い』 Épreuves,éxorcismes (1945) ,『みじめな奇跡』 Misérable miracle (1955) ,『騒々しい無限』L'Infini turbulent (1957) ,『精神の大いなる試練』 Les Grandes Épreuves de l'esprit (1966) ,『眠り方,目覚め方』 Façons d'endormi,Façons d'éveillé (1969) など。神秘主義と狂気の交点に立つ独自の詩境を開拓,存在の不条理に対する夢魔的世界を定着し,シュルレアリスムの正統的継承者として,現代フランスの代表的詩人の一人と目されている。画家としても 1930年代から活躍,特に 1956年からメスカリンを服用して描いたことで有名。

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