ミズラック(読み)みずらっく(その他表記)Richard Laurence Misrach

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミズラック」の意味・わかりやすい解説

ミズラック
みずらっく
Richard Laurence Misrach
(1949― )

アメリカの写真家。ロサンゼルス生まれ。カリフォルニア大学バークリー校で心理学を専攻し1971年に卒業。在学中に写真を撮りはじめ、卒業後、フリーランスの写真家となる。母校助手、またカリフォルニア大学サンタバーバラ校、カリフォルニア芸術学校などで非常勤講師を務める。

 写真をはじめた当初は35ミリカメラによる、社会的・政治的な関心にもとづくドキュメンタリーを手がけ、74年にバークリーの路上生活者などを取材した最初の写真集『電報午前3時』Telegraph 3a.m.を出版。その後ドキュメンタリーの有効性に疑問を抱き、新たな方向性を模索するなか、非政治的・精神的主題としての砂漠に関心をもつ。1970年代後半には、夜の砂漠で植物岩石を撮影したシリーズを、背表紙以外に一切文字を用いない写真集『ア・フォトグラフィック・ブック』A Photographic Book(1979)として発表するなど、純粋に映像言語の可能性を追求する仕事が注目を集めた。その一方、砂漠に文明論的な主題としての可能性を見いだし、のちに「デザート・カントス(砂漠の詩篇)」と呼ばれることになる、大型カメラを用いたカラー写真による作品に着手。このシリーズは20年以上にわたって撮影が重ねられ、その一部は『デザート・カントス』Desert Cantos(1987)、『ブラボー20――アメリカ西部における爆撃Bravo 20; The Bombing of the American West(1990)、『罪と光彩――リチャード・ミズラック 砂漠の詩篇』Crimes and Splendors; The Desert Cantos of Richard Misrach共著。1996)などの写真集や、アメリカ国内外の多くの展覧会を通じて発表されてきた。

 カリフォルニア、ネバダユタなどアメリカ西部の砂漠を舞台に、核実験によるクレーターや灌漑事業が引き起こした洪水など、人間活動による大規模な環境の変化が進行する風景を捉えた代表作「デザート・カントス」は、20ものサブテーマを包含し、全体では1000点を超えるイメージからなる叙事詩を形成している。非歴史的な空間としての砂漠と、そこに刻まれた歴史の終焉を思わせる破壊的な人間活動の痕跡を、独特の光と色彩に対する感覚によって静謐かつ荘厳に描き出したこのシリーズは、1975年にジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)で開催された「ニュー・トポグラフィックス」展にちなんでニュー・トポグラフィックスと呼ばれる、地誌学的あるいは環境論的な視点をとりこんだ風景写真の試みや、ニュー・カラーと呼ばれるカラー写真を用いた写真家たちの仕事など、1970年代後半から80年代にかけてアメリカの写真表現において注目された新しい潮流とも並行しつつ、その文明論的な視点によって独自な位置に立つ。

 90年代には砂漠の地平線上に広がる空を主題としたシリーズや、長時間露光によって天体の運行を捉えたシリーズに取り組むなど、「デザート・カントス」の文明論的な視点は宇宙論的な広がりへ向かいつつある。

[増田 玲]

『『デザート・カントス』(1988・トレヴィル)』『Bravo 20; The Bombing of the American West (1990, Johns Hopkins University Press, Baltimore)』『Anne Wilkes Tucker, Richard Misrach, Rebecca Solnit, Museum of Fine ArtsCrimes and Splendors; The Desert Cantos of Richard Misrach (1996, Bulfinch, Boston)』『Rebecca Solnit, Richard MisrachRichard Misrach; The Sky Book (2000, Arena Editions, Santa Fe)』

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