日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミュンツァー」の意味・わかりやすい解説
ミュンツァー
みゅんつぁー
Thomas Müntzer
(1489ころ―1525)
ドイツの宗教思想家で、ドイツ農民戦争の指導者。中部ドイツのシュトールベルクに生まれる。ライプツィヒ大学で学び、初めザクセン各地で下級聖職者として働いた。ルター派とは早くから接触し、当初はこれを支持し、1520年ルターの推薦でツウィッカウ市の説教師となった。そのころより急進的活動を開始し、ツウィッカウを追放されたのち、一時プラハに赴いた。帰国して、1523年アルシュテット市の司祭となり、下層市民、鉱夫、農民に説教し、これを秘密結社に組織した。翌1524年8月ふたたび追放され、一時南ドイツを遍歴したのち、ミュールハウゼン市に移った。ここでは急進的聖職者ハインリヒ・プファイファーHeinrich Pfeiffer(?―1525)と協力して、市参事会を変革することに成功し、同市を農民戦争の有力な拠点たらしめた。しかし、ヘッセン方伯フィリップPhilipp von Hessen(1504―1567)ら諸侯軍の攻撃を受け、フランケンハウゼンの戦い(1525年5月15日)に敗れて捕らえられ、ミュールハウゼンで斬首(ざんしゅ)された。
彼の宗教思想は、神秘主義的色彩が濃く、聖書よりは「神の直接的啓示」を至上の宗教的体験とし、その体験を受け入れる前提としていっさいの現世的欲望の放棄を強調した。そして、このような真のキリスト者による平等な「神の王国」の実現は、歴史的必然であり、眼前の農民戦争がそれである、と説いた。領主支配の廃止、「すべては共有である」と説く彼の思想は、現代共産主義の先駆として、今日高く評価されている。
[瀬原義生 2018年1月19日]
『マルクス=エンゲルス全集刊行委員会訳『ドイツ農民戦争』(『マルクス=エンゲルス全集』第7巻所収・1961・大月書店)』▽『田中真造著『トマス・ミュンツァー』(1983・ミネルヴァ書房)』