改訂新版 世界大百科事典 「メンパ族」の意味・わかりやすい解説
メンパ(門巴)族 (メンパぞく)
Mén bā zú
中国チベット(西蔵)自治区とインドとの国境地帯に居住する少数民族。中国側の人口は約7500(1990)。〈メンパ〉とは元来はチベット族の彼らに対する呼称であったが,現在は彼らの自称となった。その意味は〈門隅(彼らの主要居住地)の人〉である。メンパ語はチベット・ビルマ語系に属し,その居住地によって方言の差は非常に大きい。メンパ族は1962年の中印紛争以来,とくに注目されてきた民族である。彼らは高山峡谷地帯に住み,そのおもな生業は農業であるが,牧畜,狩猟も行っている。主要作物はそば,米,トウモロコシ,小麦等である。以前は焼畑耕作が主であったが,犂耕,水田耕作も行われている。
メンパ族の社会は父系の親族組織であり,その家庭は一夫一妻制の小家族で,男女間の恋愛と結婚は比較的自由であり,男女の地位も比較的平等であるが,以前は等級内婚姻(自由人と奴隷という二つの等級内でそれぞれ結婚)も行われたという。その歴史について詳細は不明だが,メンパ族の社会は以前から三大領主(チベット地方政府,貴族,ラマ教寺院)に支配され,彼らの大部分はその農奴と奴隷であったといわれる。メンパ族はラマ教を信仰しており,17世紀中ごろには,紅帽派のラマ教が門隅地区で主要な地位をしめていたが,17世紀中ごろに第5代ダライ・ラマがその弟子を派遣して,黄帽派のラマ教の布教が開始された。ある一部の地方では原始巫教も信仰されているといわれ,その葬制は一般的に水葬,土葬であるが,火葬,鳥葬も行われているといわれる。
執筆者:村井 信幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報