フランスの小説家。パリ近郊のブローニュ・ビヤンクールで生まれる。処女作『エトワール広場』(1968)で一躍脚光を浴びる。ナチス・ドイツ占領下の二重スパイを扱った『夜のロンド』(1969)を経て、第三作『パリ環状通り』(1972)では、占領下の曖昧模糊(あいまいもこ)とした時代を、不安と恐怖におののきつつ、なんの支えもなく手探りで生きていくしかなかった哀れな一無国籍者に、自らのさだかならぬ父親像(原点)を追求して、アカデミー・フランセーズ小説大賞を受賞。さらに1978年、失われた「過去」すなわち失われた「私」の探究の過程を、記憶喪失症患者を主人公に推理小説風に仕立てた『暗いブティック通り』でゴンクール賞を得た。
作者は、伏線や暗示などの技法を駆使した巧妙な筋立てと、しばしば「懐古rétro(レトロ)趣味」の作家ともいわれるような、詩情と喚起力に富む簡潔な文体によって、文壇の外で孤立しながら多数の読者をひきつけている。現在と過去(とくに彼自身が生まれる前の占領時代)、現実と幻想(しばしば悪夢やハリウッド映画的華やかさ)の交錯融合した、不安と憂愁の色濃い謎(なぞ)めいた黄昏(たそがれ)時のような雰囲気のうちに、アイデンティティをむなしく求めて根なし草のように浮遊する若者や、人生の落後者、余計者たち、正体不明の亡命貴族や訳ありの美女たちを好んで登場させる。ほかに代表作として、1960年代初頭アルジェリア戦争時代の、山間の静かな避暑地に出没する故郷喪失者たちを描いた『悲しき別荘』(1975。邦訳『イヴォンヌの香り』)、自伝的色彩の濃い『家族手帳』(1977)、パリのサンラザール駅で出会った青年と少女の多難な人生のスタートをユーモアとペーソス豊かに描いた『ある青春』(1981)、『八月の日曜日』(1986)など、ほとんど毎年1作のペースで作品を発表し続けているが、マンネリに陥ることなく、憂愁に満ちた陰影の濃い描写で愛読者の支持を得ている。
[野村圭介・平岡篤頼]
「もっともつかみがたい人間の運命を思い起こさせる記憶の芸術で、占領下の生活を明らかにした」ことにより、2014年にノーベル文学賞を受賞。
[編集部]
『野村圭介訳『パリ環状通り』(1975・講談社)』▽『平岡篤頼訳『暗いブティック通り』(1979・講談社)』▽『野村圭介訳『ある青春』(1983・白水社)』▽『パトリック・モディアーノ文、ドミニク・ゼルフュス絵、末松氷海子訳『シューラの婚約』(1990・セーラー出版)』▽『パトリック・モディアーノ文、ブラッサイ写真、窪田般弥訳『やさしいパリ』(1991・リブロポート)』▽『パトリック・モディアノ文、ジャン・ジャック・サンペ絵、宇田川悟訳『カトリーヌとパパ』(1992・講談社)』▽『柴田都志子訳『イヴォンヌの香り』(1994・集英社)』▽『石川美子訳『サーカスが通る』(1995・集英社)』▽『根岸純訳『いやなことは後まわし』(1997・パロル舎)』▽『白井成雄訳『1941年。パリの尋ね人』(1998・作品社)』▽『根岸純訳『廃墟に咲く花』(1999・パロル舎)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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