日本語では習俗、習律あるいは掟(おきて)などの名でよばれる社会規範の一種であるが、アメリカの社会学者サムナー以来各国ともこのラテン語をそのまま使用することが多い。社会規範のうち、価値原理が正しいという観念として伝統的に成立し、したがって守るべきだという当為観念と一定の社会的サンクションとが伴っているもので、他の二種の社会規範と比べると、当為観念とサンクションの点で慣習よりは明確かつ特定的であるが、法ほど組織的ではない。サムナーはこれを慣習(彼のことばではフォークウェイズfolkways)から区別したが、実例においてはその区別は明白でも一定しているわけでもない。また他方モーレスも、当為観念とサンクションが整ったものは、アメリカの人類学者ホーベルが法習俗lawwaysと名づけたように、むしろ法に近い。
現代社会における典型的な例は、社会的な風潮や非難によってサンクションされる社会道徳、さまざまの集団や階層においてあるいは会合や行動にあたって個人が要求されるエチケットや礼儀作法、ときにそれらの意味する階級的ないし差別的道徳、集団が共同でフォーマルな形式で行う儀式や行事、たとえば行政的、商業的、社会的な催しや、祭り、年中行事、通過儀礼など、あるいは伝承された価値を維持するための準則を守らせる伝統、そして大きくは国民性、国民道徳ともいわれる民族的慣行、などである。時代をさかのぼるとモーレスの社会規範としての意義がしだいに大きくなり、法に匹敵しあるいは超えることさえある。現代でも、理念的に極端にいえばモーレスも法外の事実にとどまり、さらに倫理則に反する因襲とみられることさえないでもないが、むしろ現実にはその規制力は強く価値原理が明らかなだけに、モーレスが当該社会の文化的シンボル(記号)として果たす作用は大きい。
[千葉正士]
『S・W・G・サムナー著、青柳清孝他訳『現代社会学体系3 フォークウェイズ』(1975・青木書店)』▽『S・K・ランガー著、矢野萬理他訳『シンボルの哲学』(1960・岩波書店)』
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…成員が無意識的,自動的に守っている慣習だと言える。この習俗に,社会の福祉にとって真でありかつ正しいとする信条や見解が付け加わると,それは3番目の慣習としての習律(モーレスmores)になる。習律は,いわば道徳的な行動標準ともみなしうるものであり,成員はそれに情緒的にも反応する。…
…社会学の術語として,〈価値と規範〉というように価値という語と関連づけて説明されるのが通例であるが,その場合には,価値が一般的な望ましさの基準といった抽象度の高い,その意味で超越的,究極的なものを現すのに対し,規範はもっと具体的に特定状況のもとでの行為を指示するような基準にかかわる。規範は,(1)その違反に対して行使される処罰の性質がインフォーマルinformal(私的個人によって行使される処罰)か,フォーマルformal(国家権力によって行使される処罰)かの区分軸によって,慣習と法とに分けられ,(2)慣習はさらに,当該規範の拘束に対してこめられた集団感情が弱いか強いかによって,習俗(W.G.サムナーのいう〈フォークウェーズfolkways〉)と習律(サムナーのいう〈モーレスmores〉)とに分けられる。習俗は伝統とか世論のように拘束力の相対的に弱いものをさす言葉で,習律は個々人を拘束する力がもっと強く,道徳のように外からの強制力によるよりも内面的な自発性によって支えられているものをさす。…
… イギリスの道徳哲学にあっては,人間は知的および倫理的に不完全さを免れないのであるから,伝統・慣習に頼ってはじめて秩序ある社会生活を営みうるのだとする考え方が濃厚である。つまり人間の行為はモーレス(習俗)のうえに形成されるモラル(道徳)によって支えられているとする見方であり,経済哲学の主たる役割もそうした習俗や道徳を解釈する点にあった。このようないわば主観主義的な方向における経済哲学はオーストリア学派の流れにもみることができる。…
…彼によれば,生存の欲求を充足させようとする努力は試行錯誤の末に一定の行動方式を選択するようになり,習慣habitが生じる。これが集団内で一致するようになると習俗となり,さらにこれに社会福祉に関する信念が加わって良俗(モーレス)が生じる。習俗は慣習のうち無意識的な標準的行動様式であり,規制力は弱いが,良俗は規制力,強制力がより強く,ここから道徳や法制度が生じる。…
※「モーレス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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