日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマカガシ」の意味・わかりやすい解説
ヤマカガシ
やまかがし
[学] Rhabdophis tigrinus
爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目ナミヘビ科のヘビ。分類上は無毒ヘビで、日本ではもっとも生息密度が高く、各地で普通にみられるが、後述のとおりいくつかの特徴を備えた独特な種である。本州、四国、九州、大隅諸島(おおすみしょとう)に分布し、近縁種が朝鮮半島、中国などに分布する。全長60~100センチメートル、雄の最大は約1.2メートル、雌では1.5メートルほどに達する。体の前半部は赤色を帯びるが、体色・斑紋(はんもん)には変異が多く、若い個体では頸部(けいぶ)の黄帯が目だつ。普通の無毒ヘビと異なり、上顎(じょうがく)後方には、前方の歯列とすこし間隔を置いて1、2本の他より大きい歯があり、基部に耳腺(じせん)の一種であるデュベルノイ腺が開いている。腺の分泌液には出血性成分が含まれており、ヤマカガシが餌(えさ)と間違えて人間の指を奥歯で深くかんだ場合など、体質や毒量によっては皮下出血や毒ヘビの咬症(こうしょう)に似た症状がおこるケースがまれにある。したがって、本種を直接取り扱う場合には、注意を要する。また頸部の真皮内には、円形組織の頸腺が十数対並んでおり、強く圧すると組織が破れて液が噴出する。この頸腺の液が天敵の目や口腔(こうこう)粘膜に付着すると炎症をおこさせる。人間の目に入れば角膜炎をおこさせ、実験的にはほかの無毒ヘビを斃死(へいし)させる。頸腺は自衛手段として有効なようで、本種は敵に出会うと、頭を下げ頸部を突き出すという特有の防衛姿勢をみせる。また老熟個体では、頸部を膨らませて立ち上がることがあり、多くの個体は体をひねり擬死をみせることがある。秋に交尾することが多く、翌年の初夏に8~20個を産卵する。餌は、ほかのヘビが嫌うヒキガエルを含むカエル、小鳥などである。
[松井孝爾]