ヤマキチョウ(その他表記)Gonepteryx maxima

改訂新版 世界大百科事典 「ヤマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヤマキチョウ (山黄蝶)
Gonepteryx maxima

鱗翅目シロチョウ科の昆虫。中型のチョウで,開張は6.5cm前後,雌雄間に大きさの差はほとんどない。ユーラシア大陸東部に分布するが,日本では本州の東北の一部と,長野,山梨およびその隣接都県の山地や高原にのみ分布する。翅の表面は雄では鮮黄色,雌では白色で,前・後翅とも翅の中心に橙色の点がある。翅の裏面は雌雄とも淡緑色を帯びる。年1回,7~8月に羽化し,成虫で越冬する。晩春に活動を再開し,雌は7月に入っても産卵する。越冬後の個体にもかなり状態のよいものが多く,近似種のスジボソヤマキチョウG.mahaguruと対照をなす。幼虫の食樹はクロツバラクロウメモドキ科)に限られる。幼虫,さなぎの大きい割りに成虫はたいして大型にはならないが,翅は厚い。夏から秋にかけ,アザミの花などで吸みつする。

 スジボソヤマキチョウは前種よりはるかに分布が広く,四国,九州にも産する。本州中部ではヤマキチョウより越冬後の活動を早く始め,成虫も6~7月に羽化する。雄は吸水集団をつくることもある。前種と開張はほとんど同じだが,前翅のとがり方が強い。食樹はクロウメモドキ類で,前種ほど好みが限られていない。越冬後の成虫は早春から活動しはじめるが,翅の汚損したものが多く,かつ裏面にはそばかす状の斑点が生じている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヤマキチョウ
やまきちょう / 山黄蝶
brimstone
common brimstone
sulphur
[学] Gonepteryx rhamni

昆虫綱鱗翅(りんし)目シロチョウ科に属するチョウ。日本では長野県・山梨県を中心とする本州中部より関東地方西部から北西部にわたる地域と東北地方の一部(岩手県および青森県の南東部)に産し、本州の特産種。国外では朝鮮半島、中国北部よりヨーロッパにわたりユーラシア大陸の北・中部に広く分布する。はねの開張は66ミリメートル程度。雄のはねの地色は濃黄色、雌では青白色。前はねの先端は雌雄ともに鉤(かぎ)状に突出する。和名は「山にすむキチョウ」の意で、その山地性であることを示している。成虫態で冬を越し、越冬母チョウはクロツバラ(クロウメモドキ科)の若葉に産卵し、これより孵化(ふか)した幼虫が成虫になるのは7、8月で、年1化の経過をとる。

白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヤマキチョウ
Gonepteryx rhamni

鱗翅目シロチョウ科。前翅長 33mm内外。前翅端は鎌状に突出し,後翅も外縁後方 (第3脈端) が弱くとがる。翅色は雄では濃黄色,雌では青色がかった黄白色で,ともに前後翅中央に橙赤色の小点があり,前翅の前縁と外縁は細く赤褐色に縁どられる。成虫は年1回,7~8月に出現する。成虫で越冬し,翌春産卵する。幼虫はクロウメモドキ科のクロツバラを食べる。ユーラシア大陸,北アフリカに分布し,日本では本州の東北・関東・中部地方に局地的に産する。日本産は亜種 G. r. maximaという。近縁のスジボソヤマキチョウ G. aspasiaはヤマキチョウに比べて翅が薄い感じで翅端はより鋭くとがり,翅縁の縁どりが弱い,などの点で区別される。朝鮮,台湾,ウスリー,中国,チベット,ヒマラヤ,インドに分布する。日本産は亜種 G. a. niphonicaといい,本州,四国,九州に産するが,本州中部以西では山地にすむ。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ヤマキチョウ」の解説

ヤマキチョウ
学名:Gonepteryx rhamni

種名 / ヤマキチョウ
目名科名 / チョウ目|シロチョウ科
解説 / 山地の草原にすみアザミなどいろいろな花のみつを吸います。オスは湿地に吸水に集まります。8月にあらわれた成虫は、そのまま越冬し、翌年の6月まで見られます。
体の大きさ / (前ばねの長さ)35mm
分布 / 本州(中部地方以北)
成虫出現期 / 8月に羽化
幼虫の食べ物 / クロツバラ

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百科事典マイペディア 「ヤマキチョウ」の意味・わかりやすい解説

ヤマキチョウ

鱗翅(りんし)目シロチョウ科の1種。開張65mm内外,雄はあざやかな黄色で前後翅の中央にだいだい赤色紋があるが,雌は緑白色。本州中部と北上高地,海外では朝鮮,中国,ヒマラヤからヨーロッパに分布。幼虫はクロツバラなどの葉を食べ,成虫は夏に現れ,成虫で越冬する。近縁種のスジボソヤマキチョウは前翅端のとがりが強く,本州,四国,九州の山地に広く分布する。絶滅危惧IB類(環境省第4次レッドリスト)。

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