改訂新版 世界大百科事典 「ヨウ化水銀」の意味・わかりやすい解説
ヨウ(沃)化水銀 (ようかすいぎん)
mercury iodide
ヨウ素と水銀の化合物で,水銀の酸化数がⅠおよびⅡに対応する化合物が存在する。
ヨウ化水銀(Ⅰ)
化学式Hg2I2。黄色正方晶系の結晶。比重7.70,融点290℃(一部分解),140℃で昇華する。構造は臭化水銀(Ⅰ)Hg2Br2に似ており,Hg-Hg結合をもち,各水銀原子はさらに5個のヨウ素原子を含めて6個の原子とひずんだ八面体6配位構造を有している。硝酸水銀(Ⅰ)水溶液にヨウ化アルカリを加えると沈殿し,これをろ過後減圧乾燥により得られる。加熱すると水銀とヨウ化水銀(Ⅱ)とに分解し,また光に対しきわめて敏感で同様に分解する。ヨウ化水銀(Ⅰ)が緑色を呈することがあるのは,この微量の水銀の存在のためである。封管中で加熱すると可逆的に赤色のHgI2に変化する。水100gに対する溶解度2×10⁻8g(25℃)。殺菌剤に用いる。
ヨウ化水銀(Ⅱ)
化学式HgI2。少なくとも3種の変態が知られている。
(1)赤色α形 比重6.30,融点257℃(黄色β形),沸点354℃(昇華)。水銀をヨウ素とすりまぜるか,硝酸水銀(Ⅱ)水溶液にヨウ化アルカリを加えれば得られる。正方晶系の結晶で,結晶中ではヨウ素原子がひずんだ立方最密パッキングをしており,その層の一つおきに水銀が,層間に生ずる四面体空孔の1/2を占めている。すなわち,水銀原子に4個のヨウ素原子が四面体配位をし,またヨウ素原子は2個の水銀原子を橋架けした無限層状構造をつくっている(図)。Hg-I原子間距離は2.78Å,Hg-I-Hgは直線状である。水100gに対する溶解度0.006g(25℃)。また有機溶媒中にもある程度の溶解度を示し,1gを溶かすに必要な体積は,エチルアルコール115ml(沸騰エチルアルコールでは20ml),エーテル120ml,アセトン60ml,酢酸エチル75mlである。水溶液中でHg2⁺とI⁻とによる生成定数はK1=7.4×1012,K2=8.9×1010,K3=4.7×103,K4=2.3×102と非常に大きく,HgI2分子は水溶液中ではほとんど解離しない。またヨウ化アルカリ水溶液中では[HgI3]⁻,[HgI4]2⁻を生じ溶解度は急速に上昇する。ヨウ化カリウム溶液からは黄色錯体K2[HgI4]・2H2Oが得られるが,これのアルカリ性溶液はネスラー試薬として極微量のアンモニアの検出に利用される。HgI2は毒性がきわめて高く,また発泡性を示す。
(2)黄色β形 赤色α形HgI2を加熱すると生成する。α→βの転移点129℃。HgBr2と似た斜方晶で,格子定数はa=4.702Å,b=7.432Å,c=13.872Å。Hgはひずんだ6配位で,Hg-I原子間距離は2個が2.62Å,4個が3.51Å,比重6.23。
(3)橙色HgI2 赤色α形の温アセトン溶液を急速に蒸発すると生成する。双晶を生ずるため結晶解析が完全には行われていないが,α形に似ていると思われる。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報