改訂新版 世界大百科事典 「ヨナグニサン」の意味・わかりやすい解説
ヨナグニサン (与那国蚕)
atlas moth
Attacus atlas
鱗翅目ヤママユガ科の昆虫。翅の開張,雄は18cm内外,雌は20cm内外。ヤママユガ科は一般に大型だが,本種は日本産の最大種であるとともに,世界でも翅の面積のもっとも広いガの一つである。翅は赤褐色,前・後翅とも大きな三角形の透明紋があり,周囲を黒帯でかこまれている。前翅頂は鎌状に突出し,その部分の前縁近くに黒紋があり,下のほうには赤色条がある。この鎌状部の形と斑紋は,ヘビの頭部を連想させる。
インド,ヒマラヤから東南アジアに広く分布し,中国南部,台湾などのほか,日本では,石垣島,西表島,与那国島に産する。ことに与那国島は昔から多産地として有名なので,和名もこの島名にちなんでつけられた。幼虫はトウダイグサ科のアカギ,ヤブコウジ科のモクタチバナなどの葉を食べる。蛹化(ようか)の際は,葉を数枚つづり合わせて細長い繭をつくる。羽化は夜間行われるが,繭から脱して翅が完全にのび,飛べるようになるまでに10時間くらいかかる。成虫は夜行性で,灯火に飛来するが,飛び方は緩慢である。光源に向かって飛ぶとき,木の枝などにぶつかり,翅が痛むことが多い。沖縄や台湾で,このガを額に入れて土産物として売られているが,これらはさなぎを採集して羽化させたものである。一時は与那国島であまりたくさんさなぎが採集され島外にもち去られたため絶滅の心配が出てきたので,町当局によって捕獲禁止の処置が取られている。石垣島でとれた例は少ないが,野生のものか与那国島からもち込まれたものが野生化したのか明らかでない。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報