改訂新版 世界大百科事典 「ヨーゼフ2世」の意味・わかりやすい解説
ヨーゼフ[2世]
Joseph Ⅱ
生没年:1741-90
ハプスブルク家出身の神聖ローマ皇帝。在位1765-90年。オーストリアの啓蒙専制君主。父フランツ1世の死後皇帝となる。母マリア・テレジアとの共同統治の時代には急進的な啓蒙主義的改革は抑えられ,母の反対を押しきって進めた彼が崇拝するプロイセン王フリードリヒ2世への接近策は,1772年の第1回ポーランド分割によって領土を加えたが,バイエルン継承戦争(1778-79)ではフリードリヒ2世の反対にあった。80年母の死後単独統治に入って翌81年寛容令,農奴解放令,その後も修道院解散,農民保護のための土地税制の改革,貴族の特権排除,商工業の育成など啓蒙的諸政策を強行し,とくに84年ドイツ語の強制による中央集権的官僚機構の整備は諸領邦貴族や非ドイツ系諸民族の反発を招いた。外交上も,81年ロシアとの同盟を強化してオーストリア領ネーデルラントとバイエルンの交換を図ったが,フリードリヒ2世による諸侯同盟結成の前に挫折し,87年にはロシアとの同盟から露土戦争に加わったが,ここでもバルカンへのロシアの進出に直面するなど,失敗を続けた。89年にはベルギーに反乱が起こり,ハンガリーでも貴族の抵抗が続いているとき,フランス革命が勃発し,これに対抗する国際的な反動化のなかで,ヨーゼフ2世は90年2月失意のうちに没し,諸改革も破産する。しかし啓蒙主義的改革の思想は,国家の従僕としての君主像と合理主義的画一的な官僚主義機構との矛盾を伴いながら,ヨーゼフ主義思想として,その後のオーストリア帝国のなかに命脈を保った。
執筆者:進藤 牧郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報