ライル(読み)らいる(英語表記)Gilbert Ryle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ライル」の意味・わかりやすい解説

ライル(Martin Ryle)
らいる
Martin Ryle
(1918―1984)

イギリス物理学者天文学者ブライトンに生まれる。父のジョンJohn A. Ryle(1889―1950)はオックスフォード大学社会医学の教授であった。1939年オックスフォード大学を卒業、第二次世界大戦中はイギリス空軍レーダーや無線通信の開発に従事、工学技術の経験をつんだ。1945年にケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所で研究員となり、当時、レーダー装置によって偶然発見された太陽電波放射について研究した。1948年にケンブリッジ大学の物理学講師となり、トリニティ・カレッジの特別研究生を経て、1959年に新設電波天文学教授に就任、1982年まで務めた。1966年ナイトに叙せられ、1972年には王室天文学者となっている。

 キャベンディッシュ研究所において電波天文学の研究を始め、小さな素子アンテナを順次動かして大きな開口面を観測し、高い分解能を得るという「開口合成法(アパーチュア・シンセシス)」を開発、それを用いて全天電波探査を行った。その後も1968年に1マイル電波干渉計、1972年に5キロメートル電波干渉計を完成させ、宇宙の観測可能地域を飛躍的に拡大させた。1974年に「電波天文学における先駆的な研究」により、同僚のヒューウィッシュとともにノーベル物理学賞受賞。これは、天文学分野では初の受賞であった。

[編集部]


ライル(Gilbert Ryle)
らいる
Gilbert Ryle
(1900―1976)

イギリスの哲学者。オックスフォード大学教授を務めた。1954年著の『ジレンマ』に見られるように、言語表現における文法上の形式的同一性と概念上の論理的同一性との混乱を除去し、概念体系全体の「論理的地形」を明瞭(めいりょう)にすることによって、諸概念の相互連関とその個別的な役割を明確にすることが哲学の目的であると考えた。また、『心の概念』The Concept of Mind(1949)において、「機械の中の幽霊ドグマ」と名づけるデカルト的心身二元論が範疇誤謬(はんちゅうごびゅう)に源泉をもち、心身に関する多くの混乱を招いていることを示すと同時に、心的できごとに関する言明の理解は他人に観察可能なふるまいに依存しているという、行動主義的な見解を唱えた。また意味論の基本的要素が文章ではなく「語」であることを強調した。

[宮下治子 2015年7月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ライル」の意味・わかりやすい解説

ライル
Ryle, Sir Martin

[生]1918.9.27. イングランド
[没]1984.10.14. ケンブリッジ
イギリスの天文学者。オックスフォード大学卒業。第2次世界大戦中は政府の電気通信関係の部局に勤務 (1939~45) 。戦後ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所研究員 (45~48) ,同大学物理学講師 (48~59) ,同天文学教授 (59) 。その間マラード天文台台長に就任 (57) 。グリニッジ天文台台長 (72) 。ロイヤル・ソサエティ会員 (52) 。戦時中のレーダ研究を生かして,戦後は電波望遠鏡の設計,製作を手がけ,1960年代中期には口径 1.6km相当の電波望遠鏡を完成。太陽系内外にとどまらず,遠く銀河系外に存在する電波源の組織的観測を指揮し,クエーサーの発見,パルサーの精密位置決定などをはじめとして,電波天文学の発展に貢献した。 66年ナイトの称号を贈られた。 74年ノーベル物理学賞を受賞。

ライル
Ryle, Gilbert

[生]1900.8.19. ブライトン
[没]1976.10.6.
イギリスの哲学者。オックスフォード大学教授。日常言語学派の中心的人物。哲学の使命は諸種の概念を論理的に規制すること,すなわち新しい知識を生み出すことではなく,既有の知識の論理的地図を改定することであると主張。哲学上のディレンマも,それを構成する概念の分析整理を通してのみ解消しうるとし,特にデカルト以来の身心問題も概念の属する範疇誤認によるものとした。主著『精神の概念』 The Concept of Mind (1949) ,『ディレンマ』 Dilemmas (54) 。哲学雑誌『マインド』の編集責任者。

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