太陽からは広い周波数帯域にわたって電磁波が放射されており、電波もその一部である。電波の放射はおもに太陽大気中の電子の加速度運動によるものである。
太陽表面は光球とよばれ、温度は約6000K(ケルビン)である。その上空には薄い1万Kの彩層、さらにその外には100万Kのコロナがある。太陽はおもに水素からなっており、これら高温の太陽大気中では電荷をもった電子(-)と陽子(+)が離れたプラズマ状態になっている。この電子が陽子と衝突したり、磁場のなかを螺旋(らせん)運動したりすると、その加速度のために電波を放射する。また、太陽表面には黒点があり、強い磁場を伴っているので、強い電波を放射する。このような電波放射機構を用いて、太陽大気や黒点付近で発生する爆発(太陽フレア)の研究が行われている。
太陽電波を観測する装置(太陽電波望遠鏡)は大きく二つに分類することができる。ラジオメーターと電波写真儀である。ラジオメーターは、太陽全面から放射される電波の強度を測定する装置で、パラボラアンテナ(回転放物鏡アンテナ)と受信機からなり、比較的簡単に製作でき、観測も容易である。さまざまな周波数で電波強度を観測し、太陽フレアで発生する高エネルギー電子の研究に利用される。連続した周波数で観測できるものをスペクトロメーターとよぶ。電波写真儀は、電波写真を用いて太陽面上の電波強度の分布を観測する望遠鏡である。細かく観測するためには分解能のよい装置が必要である。望遠鏡の分解能は観測する電磁波の波長と望遠鏡の口径の比で決まるので、光に比べて波長の長い電波では非常に大きな口径の望遠鏡が必要となる。しかし、数百メートル以上におよぶ口径の電波望遠鏡は実現がむずかしいので、小口径のパラボラアンテナを数百メートルにわたって配置し、受けた電波を干渉させて実質的に数百メートルの望遠鏡を合成する。これを電波干渉計とよぶ。これにより、時々刻々変化する太陽表面の電波強度分布を観測することができる。
太陽電波の分野において、日本は世界の最先端の観測装置を有し、研究をリードしている。1992年(平成4)から稼動している野辺山(のべやま)電波ヘリオグラフは、口径80センチメートルのパラボラアンテナ84基を、東西490メートル南北220メートルのT字型に配置した電波写真儀で、17ギガヘルツと34ギガヘルツで1秒間に10セットの電波写真を撮像することができる。電波だけではなく、人工衛星によるX線や紫外線観測データ、地上望遠鏡による光の観測データなどを総合的に解析することにより、太陽の研究が進められている。
[柴崎清登]
2015年(平成27)3月末の野辺山太陽電波観測所閉所に伴い、電波ヘリオグラフは名古屋大学地球環境研究所に引き継がれ、国際コンソーシアムのもとで運用されている。
[編集部 2017年7月19日]
『西村史朗・海部宣男編『現代天文学講座 第11巻 宇宙の観測1――光と電波による観測』(1981・恒星社厚生閣)』▽『桜井邦朋著『科学の発見はいかになされてきたか――宇宙物理学者の夢と欲望』(1997・日本評論社)』▽『R・ラング・ケネス著、渡辺堯・桜井邦朋訳『太陽――その素顔と地球環境との関わり』(1997・シュプリンガー・フェアラーク東京)』▽『前田耕一郎著『電波の宇宙』(2002・コロナ社)』
太陽の放射する電波をいう。太陽が電波を出しているかもしれないということは,1893年にエーベルトH.Ebert(1861-1913)によって指摘されていたが,観測技術が未発達だったため測定されなかった。1942年になって初めてイギリス軍のレーダー実験中に発見されたが,軍事上の機密とされ,本格的な研究が始まったのは第2次世界大戦後である。太陽は広い波長域に電磁波を放射しているが,波長が約0.1mmより長い電磁波を太陽電波と呼ぶ。波長がこれより短いほうは赤外線に連続的につながっているが,1mmより波長の短い電波は地球大気により吸収されるので地表まで到達しない。一方,波長が30mより長い電波は地球上層の電離層によって遮へいされるので,地上で観測できる波長域は1mmから30mの間に限られる。周波数で表すと300GHzから10MHzに相当する。電波の強さは,地球表面で単位面積(m2)に単位周波数(Hz)当り毎秒ふりそそぐエネルギー量で表す。これを電波フラックス密度というが,太陽電波の場合にはフラックス密度を10⁻22W/(m2・Hz)を単位として測るのが便利であり,これを太陽フラックス単位solar flux unitと呼んでいる。
電波が放射されるのは,太陽の本体,いわゆる光球ではなく,光球をとりまく高温希薄な大気の中である。可視光でもっとも明るくみえる光球は電波域では暗い球塊であるので,皆既日食時でなくてもいつでも上層の彩層やコロナを観測することができる。したがって電波観測と光観測とは相補的な関係にある。電波観測では波長によって観測する層の深さが異なる。波長数cmではコロナ下層から彩層が,波長数mではコロナ上層が観測される。また,波長をさらに長くするとコロナが惑星間空間に浸透する領域が観測される。
太陽の電波は,ほぼ一定の強さで放射しつづける定常的な成分と,フレアに伴って突発的に放射する成分とがある。前者を静かな太陽の電波,後者をバーストと呼ぶ。彩層,コロナはそれぞれ約1万Kおよび100万Kの高温にあり,ガスはほとんど電離して陽子と電子とに分かれている。質量の小さい電子は熱運動によってジグザグ運動をしつつ陽子に近づき,クーロン力を受け軌道を曲げられながら電波を放射する。彩層とコロナはそれぞれ1万K,100万Kの熱運動に相当する電波をたえず放射している。これが静かな太陽の電波である。メートル波帯で1~10太陽フラックス,センチメートル波帯で100~1万太陽フラックスの強さである。
一方,フレアのとき発生する突発的なバーストは,強さが時間的に激しく変動し短いときには1分,長くても1時間ほどで終わる。バーストの強さはフレアの規模によってまちまちであるが,静かな太陽の数倍から数千倍にも達することがあり,電波の強さを温度に換算すると1億Kから100億K,ときにはそれ以上にもなる。強いバーストの電波は100万Kのコロナが放射する熱的なものとしてはとても説明することはできない。フレアではエネルギーの高い電子が作られるが,これらの電子が磁場をもつプラズマ中を運動することによって放射する強い電波がバーストとして観測される。高エネルギー電子が黒点上層の磁力線のまわりを旋回するときにだすシンクロトロン放射は,センチメートル波帯バーストの有力な放射機構と考えられており,またコロナの中で高速電子流が作るプラズマ振動は,メートル波帯で観測される種々の型のバーストの放射機構と考えられている。このように一部のエネルギーの高い電子によって放射される電波を非熱的放射と呼んでいる。
太陽電波の性質を詳しく調べることによって,フレアでエネルギーの高い粒子が作られる過程,爆発で生ずる大振幅の衝撃波が秒速約1000kmで惑星間空間を伝播(でんぱ)する過程およびプラズマの塊がフレア領域から噴出される過程など,光の観測からはわかりにくいダイナミックな現象を調べることができる。
太陽電波の特徴は,時間変動が激しいことであろう。いつ大きなバーストが発生するか予知することはむずかしいので,常時観測態勢を整えておく必要がある。国際協力のもとに,世界各国にある観測所が,強度計,偏波計,干渉計などで太陽の監視を行っている。日本では,文部省(現在は大学共同利用機関法人の自然科学研究機構が管轄)国立天文台野辺山太陽電波観測所,名古屋大学太陽地球環境研究所,郵政省平磯宇宙環境センター(現,独立行政法人の情報通信研究機構平磯太陽観測センター)で広い波長域で太陽の連続観測を行っている。
執筆者:甲斐 敬造
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