改訂新版 世界大百科事典 「ラインスタッフ組織」の意味・わかりやすい解説
ライン・スタッフ組織 (ラインスタッフそしき)
line & staff organization
ラインとスタッフという言葉は,そもそも軍事上の用語である。ラインとは前線で直接戦闘を行う部隊を示し,スタッフとは,それを支援する工兵隊などを表すスタッフ部隊と,戦略・戦術を専門に分析・検討する参謀本部general staffを表している。このような組織形態が事業経営の領域に持ち込まれ,現在ではほぼすべての大規模企業がこの形態を採用している。経営組織の領域では,企業の目的を遂行するのに第一義的に必要とされるものを担当する部門,たとえば製造,販売などをライン部門とよぶ。これに対して,企業活動全体の計画や統制を専門に行う企画などをスタッフ部門,人事や総務などの補助的な機能を果たす部門をサービス部門とよび,あわせて広義のスタッフ部門ともいうことがある。
ライン部門と広義のスタッフ部門とをあわせもつ組織形態をライン・アンド・スタッフ・オーガニゼーション(ライン・アンド・スタッフ組織),または参謀部制直系組織(直系参謀組織)という。この提唱者は,F.W.テーラーと同時代の科学的管理の研究者エマソンHarington Emersonである。このような組織形態が事業経営に取り入れられたのは,(1)企業の規模が拡大し,スタッフ部門の専門分化を図ることによるメリットが高まったこと,(2)企業の直面する不確実性が生産性向上から外的環境の変動へと移り,その結果,市場や技術の予測,多角化の計画などが一つの部門に任されるほど重要性を増したこと,などが原因である。
ライン部門は命令・制裁権限をもち,スタッフ部門はライン部門に対し助言とサービスの権限を保有するといわれるが,実際には,両者の区別はそれほど明確ではない。スタッフ部門は,命令・規則および方針などを作成し,ライン部門の長の命令という形で,各ラインに伝達し,経営方針や計画をラインが実行するのを確かめる責任をもっているのである。それゆえ,スタッフが単にラインに対する助言とサービスの権限のみを保有するというのは,現実にみられる事象とは異なっていると考えざるをえない。そこでスタッフ部門は,違反に対する制裁権限をもたないとはいうものの,実際にはかなりの程度までライン部門の活動を規定しうることから,組織の大規模化などによるスタッフ部門の拡張は,ライン部門とスタッフ部門の間の摩擦を増大させ,権限の配分をどうすればよいかなどの組織設計上の問題が生じることになる。最近では,アメリカ企業においては,戦略スタッフの力がライン部門のそれを上まわり,かつスタッフ部門の過度に分析的・計量的手法の重視によって,組織の戦略実行力が低下してきたといわれ,〈分析麻痺症候群〉と揶揄(やゆ)されるようになっている。
執筆者:野中 郁次郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報