日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治地理学」の意味・わかりやすい解説
政治地理学
せいじちりがく
political geography
国家をとくに領土という側面から研究する人文地理学の一部門。国家は領土・国民・主権(統治)の三要素の結合した有機体であると考え、その構造を解明しようとしている。日本の地理学は、一般に、自然・文化・経済・歴史といった側面に注目する傾向があるので、わが国では政治地理学は現在あまり発達した学問分野だとはいえない。しかし比較政治学や地域研究と組み合わされれば有益な成果を生む可能性は大きい。
政治地理学を確立したのはドイツの地理学者F・ラッツェルであり、彼は主著『政治地理学』(1897)で、「国家は一群の人類と一塊の土地からなる」と述べ、領土と国民との緊密な結び付きをもつ生活体という観点から国家の地理的解明を行った。20世紀になるとイギリスのマッキンダーHalford J. Mackinder(1861―1947)が『民主主義の理想と現実』(1919)で、「世界島」World Islandという「ハートランド」の概念を、ユーラシア大陸の中心部(旧ソ連)に当てはめ、大陸国と海洋国の対立を強調した。その後ドイツにおいてナチズムを背景にした地政学の発達がみられたが、第二次世界大戦後のアメリカにおける政治地理学の発達は目覚ましいものがあり、国際関係論や地域研究の発展の基礎となり、領土問題は国際法の重要課題となった。なお、フランスではシーグフリードが選挙行動と地理的背景の関係を研究している。
[川野秀之]