フランス中西部の地方名,旧州名。範囲はコレーズ,クルーズそしてオート・ビエンヌの3県にまたがり,中心都市はリモージュ。リムーザンの名称は古代のレモウィケス族Lemovicesに由来する。
マシフ・サントラル(中央山地)の北西部に位置し,北側はブールボネとベリー地方,西側はポアトゥーとサントンジュ,アングモア各地方,東側はオーベルニュ地方,そして南西側はペリゴール地方に接する。大半の地域が古い時代に生成した結晶岩質からなる。中央部と東部は標高が高く,ベスー山(978m)がある。西と南方向に向かうにしたがって標高が低くなり,200mほどまで低下する。丘陵地帯はクルーズ,ビエンヌ,ベゼール,コレーズそしてドルドーニュの諸河川によって浸食を受けて河谷が形成されている。標高の高い東部には準平原が広がり,地表は花コウ岩で覆われている。丘陵地の凹地には泥炭質の沼地があったり,標高が低い丘陵地の周辺部には,花コウ岩の崖が露出しており,ときには深い渓谷を形成している。南西部に位置するベゼールとビエンヌ両河川にはさまれた地帯では,古くからの浸食に残された小さな丘が連なる。気候は海洋性で,年降水量は800~1000mmに達し,冬には積雪もある。内陸部に向かうにしたがって気候も厳しくなり,山岳部では地形の影響を受けて,年降水量が1200mmに達するところもある。丘陵地や山岳部では冬が長くて気温も下がるが,河谷部では気温の低下も和らぐ。結晶質片岩から酸性土壌を流出させてきたために,荒地が拡大してきた。一般に植生に乏しく,ヒースやシダ類が目だつ。しかし,19世紀以降標高の低い丘陵地では土壌改良が進められ,山岳部や標高の高い丘陵地では針葉樹を主体とした植林が促進されるなどして,荒地面積を縮小させる努力が続けられている。
フランスを地方別に区分すると,コルシカ島を除いて当地方は最も人口密度が低い(42人/km2,1993)。それぞれの県が人口数の最高を示したのは,クルーズ県が19世紀中ごろ,コレーズ県が19世紀末期,オート・ビエンヌ県が20世紀初期で,その後は各県とも人口減少が続き,1960年代には当地方の全人口は73万人台に減少した。その後,人口増加の兆しをみせたが,死亡数が出生数より勝るという新しい現象が生じはじめ,しかも人口増減に地域的差異が生じている。これは都市の分布の不均衡が人口の地域的分布を不均等にしているためである。
フランスの中で最も農村的な要素の強い地方であり,農村部からの流出人口が絶えない。経済的に弱体であり,工業化も遅れてきた。かつて盛んであった石炭業やカオリン(陶土)の採掘業も現在では衰退し,ブシンヌ・シュル・ガルタンプでウラニウム鉱の採掘があるのみである。農業が最も重要な生産活動であるが,その生産性は低い。かつては自給的なソバ,ライムギ,アマ,栗などの栽培がなされたが,それらの作物に代わってジャガイモや小麦などの伝統的な農業が営まれるようになった。また肥沃な農業地帯ほど人工牧草地に転換される傾向にあり,牧畜業が高収益をあげるようになっている。リムーザン種やシャロレ種の肉牛飼育のほか,羊,シチメンチョウの肥育,養豚業などがある。陶磁器,皮革,製紙業などの在来工業は,経営が困難になりつつあり,電気機械工業のような近代工業は,リモージュとブリーブだけに限られている。パリとトゥールーズを結ぶ交通の大動脈がリモージュやブリーブなど当地方の西側を通るが,東側は大きな交通路から隔たり,経済的にも人口的にも遠隔地として位置している。したがって都市化が進まず,第3次産業の進展は鈍く,観光業も家族主体の観光客を受け入れるにすぎない。農業近代化のために,1962年リムーザン,オーベルニュ地方の開発公社が設立されたが,農業発展を遅らせてきた諸要因(ボカージュと称される畦畔林の存在,鉄道網の不備など)を取り除くとともに,山岳部での植林を促進すれば,資源の保全とともに観光業を進展させるものと期待されている。
この地方の言語はいわゆるオック語(オクシタン)の中核をなしており,中世期にリムーザン一帯はトルバドゥール(南仏恋愛詩人)の活躍地であった。また19世紀には,クルーズ河谷がジョルジュ・サンドの小説の舞台としてしばしば登場し有名となった。
執筆者:高橋 伸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス南西部の歴史的地域名、旧州名。マッシフ・サントラル(中央群山)の北西端にあたり、北はマルシュ、東はオーベルニュ、南はケルシー、西はアングモアの各地方に接する。現在も行政地域名として用いられており、コレーズ、クルーズ、オート・ビエンヌの3県に相当する。3県の合計面積は1万6942平方キロメートル、人口71万0939(1999)。中心都市はリモージュ。結晶片岩や花崗(かこう)岩からなる波状高原で、中央から西と南の方向に傾いている。北部は牧畜が盛んで、南部はブドウ、野菜栽培が行われている。工業はあまり発達せず、鉱業も衰えたが、近年ウラニウムが発見されている。リムーザンの名は古代ガリアのレモビケスLémovices人に由来し、ローマの支配を受けた。918年にはアキテーヌ公爵領となる。12世紀以来イギリス領であったが、1607年アンリ4世のときフランス領となった。経済的には、政治家チュルゴーによる18世紀の経済改革まで取り残されていた。現在でも経済的には弱体で、人口密度が低く、都市化の及ばない農村地域となっている。
[青木伸好]
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