ルキアノス(読み)るきあのす(英語表記)Lucianos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルキアノス」の意味・わかりやすい解説

ルキアノス
るきあのす
Lucianos
(120ころ―180ころ)

シリア生まれのギリシア語による作家。イオニアで修辞学とアッティカ風散文(擬古文)をマスターし、ギリシア、イタリア、ガリアを遊歴して法廷弁護人あるいは講演者として名声を博した。40歳ごろからアテネで作家生活に入り、晩年はローマ帝国のエジプトで仕官した。作品は偽作も含めて八十余編で多くは対話形式。当時はギリシアの神々への信仰が衰えてすでに久しく、キリスト教もいまだ世界宗教とはならず、世間にはいかがわしい宗教がはびこり、ピタゴラス派、アカデメイア派、犬儒派、逍遙(しょうよう)学派、ストア派、エピクロス派、懐疑派などの末流が実りのない議論に明け暮れていた。こうした奇跡演出者や哲学諸派の名誉欲、金銭欲、迷信などを風刺した作品が多い。自伝的小品『夢』、哲学諸派を叩(たた)き売る『生き方の競売』、アクロポリスから金貨を垂らして哲学者どもを釣り上げる『漁師』、えせ宗教家・哲学者を攻撃する『偽予言者アレクサンドロス』『ペレグリノスの昇天』、崇拝されなくなったオリンポスの神々がうろたえる『悲劇役者ゼウス』、迷信を笑う『嘘(うそ)好き』、友情論『トクサリス』、虚実の間(あわい)に生きる遊女や嫖客(ひょうかく)の哀歓を描く『遊女の対話』、そして月世界旅行や鯨の胎内生活を含む『本当の話』は後世の模倣者も多い。彼自身は確固たる哲学的立場をもたないが、その多才な知性ゆえに、古代のエラスムスボルテールとも称される。

[中務哲郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルキアノス」の意味・わかりやすい解説

ルキアノス[アンチオキア]
Lukianos; Lucian of Antioch

[生]240頃.サモサタ
[没]312. ニコメディア
殉教者ルキアノスともいう。聖人。キリスト教神学者。シリアに生れ,エデッサのマカリオスに学び,受洗後厳格な禁欲的生活に入る。のちアンチオキアに聖書解釈学校を創設。サモサタのパウルスの影響を受け,キリスト論では聖子従属説を唱えた。その後ニコメディアの皇帝マキシミヌス・ダザの宮廷へ連行され,飢えと拷問の苦しみにあいながらも信仰を捨てず,ついに殉教。その勇敢な殉教録はエウセビオスやルフィヌスによって伝えられている。アリウスやエウセビオスは彼の弟子。

ルキアノス
Lukianos

[生]125頃.サモサタ
[没]180以後
ギリシアの風刺作家。シリアに生れ,ギリシア語を学び,放浪講演者としてイタリアからガリアまで旅行した。 40歳頃アテネに定住し,対話篇の執筆に従事し,晩年にはエジプトで行政官をつとめた。作品は偽作も含めて 80編に及び,多くは対話または手紙の形式で宗教や哲学に鋭い嘲罵を浴びせたり,世の中の愚行や欠陥を滑稽に描いたもので,機知に富んだ饒舌を特徴とする。新喜劇とキュニコス派のメニッポスからの影響が大きい。最もよく知られているのは誇張に満ちた旅行譚『本当の話』 Alēthēs Historiā。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

一粒万倍日

一粒の種子をまけば万倍になって実るという意味から,種まき,貸付け,仕入れ,投資などを行えば利益が多いとされる日。正月は丑(うし),午(うま)の日,2月は寅(とら),酉(とり)の日というように月によって...

一粒万倍日の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android