改訂新版 世界大百科事典 「ルリスタン青銅器」の意味・わかりやすい解説
ルリスタン青銅器 (ルリスタンせいどうき)
Luristan Bronzes
イラン北西部のザーグロス山脈北麓からカスピ海西南岸にかけての,主として古墓や神祠から発見される青銅器の総称。1928年ころから大量に盗掘され,骨董市場を経由して海外に流出し,世界各地の博物館や収集家の収蔵するところとなった。発見当初,ルリスタン北部のケルマンシャー付近出土と伝えられたため,ルリスタン青銅器と呼ばれたが,類品はイランのクルディスターン,アゼルバイジャン,マーザンダラーン,ギーラーンおよび旧ソ連領を一部含めた地域からも発見されている。これらの青銅器は武器,車馬具,祭祀具,装身具など種類が豊富で,多くは持運びに適した小型品であること,独特な動物形を基調とした文様で飾られていること,ほとんどが墓から発見され,住居址などとは結びつかないことなどから,製作・使用した人々は遊牧騎馬民族であろうと推定されている。しかし科学的な発掘例が少ないので,その担い手や年代についてはまだ判然としない。年代は前2500-前1200年説から前800-前600年説までが乱立しているありさまである。
ルリスタン青銅器の特徴は,馬,ヤギ,猪,鹿,鳥などの動物文様にあり,動物形を左右均斉に配するのがふつうである。また,動物に怪奇で幻想的な顔や翼を付け加えたり,動物のさまざまな部分を組み合わせた意匠もあるほか,神像と獣形が結合したもの,豊穣のシンボルである地母神像やギルガメシュの像も好んで題材とされた。宗教的・神話的要素にはメソポタミアの影響が強い。これらの動物文様で飾った轡(くつわ),闘斧,円盤状ピンなど特徴的な遺物は前1200-前800年ころ,つまり青銅器時代末期から初期鉄器時代にかけての所産とみるのが妥当であろう。なお,ルリスタン青銅器中の銅剣には,関(まち)部に三日月形をつくりつけたものとそうでないものとの二つの系統があり,前者はカスピ海沿岸地方に,後者はザーグロス山麓の高原地帯に認められるが,両者はそれぞれ性格を若干異にすると思われる。
動物形を基調としたいわゆる動物意匠は,黒海北岸を中心とするスキタイ文化や,はるか東方の中国長城地帯に分布するオルドス(綏遠(すいえん))青銅器文化,さらに四川,雲南を中心に広がる巴蜀文化などに認められ,これら相互の間の関連を説く学説もあるが,担い手が同じ遊牧騎馬民族であるとしても,直接的な関係は今のところ認められない。
執筆者:山本 忠尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報