前7世紀から前3世紀にかけて黒海北岸の草原地帯を中心として成立した騎馬遊牧民族スキタイの文化。史上最古の騎馬遊牧民の文化の一つとして知られる。広義には,スキタイと同時代に北方ユーラシアにひろまった同様の騎馬遊牧民族の文化をも〈スキタイ文化〉と呼ぶ場合がある。
スキタイ文化の主要な遺跡は多数の高塚(クルガン)と集落址である。スキタイ高塚の発掘は18世紀に始まり今日に至るまで継続され,サンクト・ペテルブルグのエルミタージュ美術館を中心に多くの金銀製の華麗な出土品が収集されている。
考古学上のスキタイ文化の特色は,(1)アキナケス型の剣,三翼式青銅鏃(直進性にすぐれ,命中率が高いとされる),闘斧,投槍,ゴリュトス(弓矢筒),札甲などの武器,(2)轡(くつわ)などの馬具,(3)動物意匠の特異な装飾美術,とされる。これらの文化的要素の成立については,今日なお研究者の間に意見の一致をみないが,先行する木槨墳文化の伝統の上になんらかの外来の要素が加わって成立したのではないか,という見解がしだいに有力になりつつある。初期のスキタイ文化には,前6世紀のリトイ古墳やケレルメス古墳の出土品にみられるように,スキタイのオリエント遠征によるアッシリア,ウラルトゥ美術の影響が濃厚であるが,その後黒海北岸のギリシア植民市との交易を通じてギリシア文化に接触するようになり,ギリシアの製品を多数輸入した。スキタイの神話伝説や風俗習慣はヘロドトスの《歴史》や偽ヒッポクラテスに詳しく記述されている。
前4世紀にはスキタイは全盛期を迎え,ドニエプル川に接したカメンスコエ・ゴロディシチェのような支配者の居住する防塞集落や手工業の中心地が出現した。この時期には豪華な副葬品を伴った王墓が多数造営された。なかでも有名なのは,ケルチ近郊のクリ・オバ,ドニエプル川下流ニコポリ近郊のチェルトムルイク,ソローハ,トルスタヤ・モギーラなどの諸高塚で,人馬の殉葬を伴い,ギリシア神話やスキタイの風俗を表した金銀装飾の武器,装身具,容器が出土した。これらの作品の多くはスキタイ向けにつくられた輸入品であり,ボスポロス王国(一説によればトラキア)の工匠の作品とされている。
スキタイ美術には,猛獣,怪獣,動物闘争文などを好んで主題とした,いわゆる〈スキタイ動物意匠〉が顕著である。これらの動物意匠(アニマル・スタイル)の起源については,オリエント起源説と東方(シベリア)起源説があった。従来は,スキタイのオリエント遠征によって古代オリエント美術から動物意匠が伝播した,とするオリエント起源説が有力であったが,最近シベリア南部のトゥーバのアルジャン凍結墳墓から前8~前7世紀の動物意匠飾板が発見されたことから,東方起源説を再評価する動きがある。スキタイ式動物意匠はアルタイのパジリク古墳群の遺物などにみられるように広く北方ユーラシアに分布し,その伝統はサルマート文化に引き継がれていく。
執筆者:穴沢 咊光
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