フランスの作家ビクトル・ユゴーの長編小説。作品の壮大な構想は20代から練られたといわれるが、1848年の二月革命で中断、60年に再開して2年後、ブリュッセルとパリから同時に刊行された。ユゴーの人道主義的思想の集大成といえるもので5部・10巻からなる。一切れのパンを盗んで逮捕されたジャン・バルジャンJean Valjeanは何度も脱走を計って19年間入獄、社会への憎悪を抱いて出獄する。一夜の宿を借りた司教館から銀器を盗むが、ミリエル司教の慈愛に触れて回心し、以後は愛と献身の生活を送ることになる。
数年後、マドレーヌと名を変えた彼は工場経営に成功し、慈善を施して人望を得、市長にまでなるが、彼を前科者と見抜いた刑事ジャベールに執拗(しつよう)につけ狙(ねら)われる。そのころ、まったくの別人が彼の身代りに逮捕されたことを知って、地位と財産を捨て名のり出たことから、ジャンはまた振り出しに戻るがふたたび脱獄。不幸な娼婦(しょうふ)ファンティーヌの遺児コゼットCosetteを探し出し、かねてからの約束を守って引き取り、ジャベール刑事の目を逃れながら、りっぱに成長させる。コゼットと共和主義者マリウスの愛を知ったジャンは、市街戦で負傷したマリウスを背負ってパリの巨大な下水道をさまよい、王党派の追跡を逃げ切る。彼はこのときジャベールの命も救ったが、法の非情な番人だったこの刑事は人間愛との板挟みに悩んで自殺。コゼットはマリウスMariusと結婚する。ジャンの前科を知らされたマリウスは一時妻を養父から遠ざけるが、やがてその献身の生涯を知り、駆けつけて不明を詫(わ)びる。ひとり死の床にあったジャンはいまや愛する者たちにみとられて幸福な最期を迎える。
題名の示すとおり社会の悲惨な犠牲者たちを主人公とし、大革命から王政復古へと激動のフランス社会を描き、本筋とはあまり関係ない歴史的考察や挿話(ワーテルローの戦いなど)を混じえながら壮大な叙事詩的小説世界を構築した。人物は巨大で典型化しているが、それだけに作者の意図は明瞭(めいりょう)に伝わる。各国語に翻訳されて大衆文学の傑作として愛読され、ユゴーの名を世界的に著名にした。日本では、1902年(明治35)黒岩涙香(るいこう)が『噫無情(ああむじょう)』として『萬朝報(よろずちょうほう)』に翻案・連載した。
[佐藤実枝]
『『レ・ミゼラブル』(豊島与志雄訳・7冊・岩波文庫/辻昶訳・6冊・講談社文庫/石川湧訳・8冊・角川文庫)』
フランスの詩人,小説家ユゴーの長編小説。1862年出版。貧しさと飢えに苦しむ甥たちを救おうとしてパンを盗んだために,19年間も獄中生活を送ったジャン・バルジャンは,社会に対する激しい憎しみを抱いて出獄する。だが,やがて神のようなミリエル司教の慈愛に触れて愛の精神にめざめ,それ以後不幸な人々を救う人類愛の具現者となる。そして哀れな女の一人娘コゼットを養女にし,青年マリウスと幸せな結婚をさせて死んでいく。恵まれぬ人々に対するこうしたキリスト教的な愛と並んで,社会改革の強い意志も認められる。また《レ・ミゼラブル》は,作者が以前から胸に抱いていた,人類全体が闇から光へ上昇するという進歩の神話を,ジャン・バルジャンという個人の生涯を借りて表現しようとした作品でもある。1845年から48年にかけて初稿が書かれ,長い間中断されたのち62年に完成された。とくに写実主義の作家たちからは荒唐無稽だとして批判されたが,近代における神話の創造をめざした作品であり,全編を満たすたくましい想像力の働きが高く評価されている。各国語に翻訳され,世界文学の古典として愛読されてきた。日本でも,1902-03年に黒岩涙香が《噫無情(ああむじよう)》と題して翻案し大好評を博して以来,広く読者に読み継がれている。明治時代には,社会改革の理想を追求した作品として衆人の関心を集め,以後も何度となく邦訳されている。映画化やテレビドラマ化も試みられた。
執筆者:辻 昶+稲垣 直樹
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(2013-2-7)
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…その小説は数が多く,《人間繁栄》(1924),《道化役》(1935),《白蛾》(1946),《山吹の花》(1954)などに収録されている。またユゴーの《レ・ミゼラブル》(1918‐19),ロマン・ロランの《ジャン・クリストフ》(1920)などの訳業があり,名訳としての誉れが高い。さらに《夢の卵》(1927),《エミリアンの旅》(1933)など質の高い童話を多く残した。…
…この間,《懲罰詩集》(1853)などを出版してナポレオン3世を攻撃する一方,人類の歴史と宇宙の生成を独自の思想と想像力によって再構成しようとして,《静観詩集》(1856)や《諸世紀の伝説》第1集(1859),それに死後出版された《サタンの終り》(1886)や《神》(1891)などを執筆した。彼はまた光に向かう〈民衆〉の進歩をこうした神話創造の中核と考え,《レ・ミゼラブル》(1862),《海に働く人々》(1866)などの小説も発表した。1870年ナポレオン3世の帝政が崩壊すると,彼は祖国に戻った。…
※「レミゼラブル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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