グラーフ(読み)ぐらーふ(英語表記)Arturo Graf

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラーフ」の意味・わかりやすい解説

グラーフ(Regnier de Graaf)
ぐらーふ
Regnier de Graaf
(1641―1673)

オランダの医師、解剖学者。ショーンホーベンSchoonhovenで生まれ、ユトレヒトライデンで医学を学び、デルフトで開業した。1664年に膵液(すいえき)の研究を発表、翌1665年学位を得た。この研究により、19世紀のフランスの生理学者C・ベルナールから実験生理学の創始者として高く評価された。大学の職を提示されたが断り、個人で研究した。「グラーフ濾胞(ろほう)」によりその名を知られているとおり、ヒトを含む多くの哺乳(ほにゅう)類の卵巣を解剖し、現在でもそのまま通用する詳細な図版をかいた。また、ウシの交尾前後、ウサギの妊娠全過程の卵巣の形態学的変化を観察し、生理機能を推論した。卵巣の黄体が分泌機能をもつという議論などは、その後1900年ごろになって初めて確認された現象である。濾胞全体を卵だと誤認はしたが、哺乳類卵は1827年に初めて発見されたのである。現代生殖生物学の基礎を築いた人といえる。

[川島誠一郎]


グラーフ(Arturo Graf)
ぐらーふ
Arturo Graf
(1848―1913)

イタリアの文芸評論家、詩人。大学教授としてトリノに住み、雑誌『イタリア文学史研究』を創刊し、その編集のかたわら、『レオパルディ論』(1898)、『18世紀イタリアにおけるイギリス賛美』(1911)など、作家論や文化論を著した。初めは実証的な唯物論にたっていたが、晩年には逆にキリスト教信仰に依拠した。揺れ動く精神の苦悩のなかで数々の詩集を残した。代表作は『メドゥサ』(1880)。それゆえ、改宗を基軸に歴史小説を書いたロマン主義の大作家マンゾーニを再評価した。その意義は大きい。

[山本まゆみ]


グラーフ(Peter-Lucas Graf)
ぐらーふ
Peter-Lucas Graf
(1929― )

スイスのフルート奏者。チューリヒ生まれ。同地でアンドレ・ジョネ、パリ音楽院でマルセル・モイーズに師事、1953年ミュンヘン国際コンクールで第1位となり、独奏者として活動するようになる。74年(昭和49)初来日し、的確な様式感覚に根ざした知的な演奏を聞かせ、オーレル・ニコレに次ぐスイスの名手であることを示した。華やかさはないが、その演奏は清らかで自然な感興にあふれ、玄人(くろうと)受けのする高い技術水準を誇っている。

[岩井宏之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グラーフ」の意味・わかりやすい解説

グラーフ
Graf; comte; count

中世初期のフランク王国で,王が地方の裁判,行政の統轄者として任命した役人。ラテン語でコメス comes。その管区をグラーフシャフト (ラテン語でコミタツス comitatus) と呼ぶ。広範な軍事上の権限と裁判権をもつ。メロビング朝のもとで,当初は王の側近の従士から選任されたが,7世紀に王権が弱まると在地の豪族がこれに加わった。カロリング朝に入って,グラーフ制が整備強化されたが,やがて教会領や貴族領のインムニテート (不入権) が発達するに伴いその権限は縮小し,レーン制の成立過程でグラーフの官職自体がレーン (封) に転化し,世襲されるようになった。それ以後,中世から近代にかけて,グラーフ (伯と訳される) は封建諸侯の位 (公 Herzogの下) を示す称号となった。

グラーフ
Graf, Oskar Maria

[生]1894.7.22. ベルクアムシュタルンベルガージー
[没]1967.6.28. ニューヨーク
ドイツの小説家。家業のパン屋を継いだが,ミュンヘンに出て清掃夫,郵便配達など多くの職業に従事,1917年以後詩作を始め,小説にも筆を染めた。バイエルンの郷土色豊かな農民小説で知られる。 33年亡命,アメリカに渡る。「俺を焼き殺せ!」の題のもとで『ウィーン労働者新聞』に書いたナチス弾劾文で世界的に有名。ニューヨークでもバイエルンの農民服で生活,奇行で知られる。『田舎作家のノート』 Notizen des Provinzschriftstellers (1932) ,『万人に反抗するもの』 Einer gegen alle (32) ,『わが母の生涯』 Das Leben meiner Mutter (47) など。

グラーフ
Graaf, Reinier de

[生]1641.7.30. スホーンホーベン
[没]1673.8.17. デルフト
オランダの医師,解剖学者。ユトレヒト,ライデン両大学で医学を学び,膵液に関する研究 (1664) が認められ,1665年フランスのアンジェル大学から医者の資格を得る。 67年よりデルフトで医師を開業しつつ,消化器と生殖器の解剖学を研究。胞状卵胞の発見者として知られている。この発見 (72) により,哺乳類においても他の動物と同様卵が存在することが知られるようになった (グラーフ自身は,自分が発見したものを卵そのものと考えた) 。ほかに血管への色素注入法を考案したことでも知られる。

グラーフ
Graf, Urs

[生]1485頃.ゾロツルン
[没]1526. バーゼル
スイスの画家,版画家,金工家。ストラスブール,チューリヒ,バーゼルで制作。北イタリアでの戦闘に傭兵として参加した。彼は A.デューラーの版画の影響を受け,銅版画では主として宗教的題材のもの,木版では風景画や風俗画を描いた。主要作品は『戦争』 (1515,バーゼル美術館) 。

グラーフ
Graf, Arturo

[生]1848. アテネ
[没]1913. トリノ
イタリアの詩人,評論家。レオパルディの影響を強く受け,厭世的な詩を発表したが,晩年に改宗した。主著『日没ののち』 Dópo il tramonto (1893) 。

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