日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワイスコップ」の意味・わかりやすい解説
ワイスコップ
わいすこっぷ
Victor Frederick Weisskopf
(1908―2002)
アメリカの物理学者。オーストリアのウィーン生まれ。1926年からウィーン大学で古典物理学を学び、1928年からゲッティンゲンでM・ボルンらに量子物理学を学んだ。ウィグナーとスペクトル線の自然幅に関する研究を行い、1931年学位を取得。シュレーディンガー、ランダウ、ボーア、ディラック、パウリらに師事。1937年アメリカに渡り、ロチェスター大学講師、1939年同助教授。1942年アメリカに帰化。1943年から1946年まではロス・アラモスで原爆製造計画(マンハッタン計画)に参加、原子核反応の統計的理論を展開し、原子炉における中性子の役割を明らかにした。1946年からマサチューセッツ工科大学教授、1961年から5年間ヨーロッパ原子核研究機構(CERN(セルン))の所長を務めた。1951年γ(ガンマ)崩壊に関する平均寿命の研究を行い、フェッシュバッハHerman Feshbach(1917―2000)らと原子核の光学模型を提出。原子のエネルギー準位の幅と寿命との関係を与えるワイスコップ‐ウィグナーの理論で知られる。またディラック理論による電子の自己エネルギーの対数的発散を証明し、後のくりこみ理論に有力な手掛りを与えた。そのほか場の量子論や中間子などに多くの研究がある。1981年ウルフ賞(物理学)を受賞。核兵器の廃絶を訴える平和活動家としても知られる。著書に『量子の革命』La Révolution des Quanta(1989)、『現代の物理学』Physics in the Twentieth Century : Selected Essays(1972)、『サイエンティストに悔いなし――激動の20世紀を生きて』The Privilege of Being a Physicist(1989)などがある。
[高橋智子 2018年12月13日]
『V・F・ワイスコップ著、藤岡由夫訳『自然の驚異――星の進化から生命の発生まで』新装版(1977・河出書房新社)』▽『長澤信方訳『サイエンティストに悔いなし――激動の20世紀を生きて』(1990・丸善)』▽『三雲昂訳『量子の革命』(1993・丸善)』▽『藤田純一・吉田思郎訳『現代の物理学』(講談社学術文庫)』