ワクモ(読み)わくも(英語表記)poultry mite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワクモ」の意味・わかりやすい解説

ワクモ
わくも / 鶏蜱
poultry mite
chicken mite
[学] Dermanyssus gallinae

節足動物門クモ形綱ダニ目ワクモ科に属するニワトリの外部寄生ダニ。ニワトリダニともよばれる。0.7~1.0ミリメートルのほとんど無色のダニで、吸血すると赤から黒色に変わる。イエダニに似るが、毛が少なく、吸血器が鞭(むち)状できわめて細長いことで区別がつく。卵→幼虫→第1若虫→第2若虫→成虫の齢期があり、ニワトリ小屋の小さなすきまや塵(ちり)の中に潜んでいて、第1若虫以後のすべての齢期に一時的に宿主に移行して吸血する。卵は約1週間で成虫に達してしまうが、成虫の寿命は長く、未吸血のままでも4~5か月は生きる。高温・多湿の時期に大発生しやすく、ニワトリを激しく襲うと、体力を衰えさせ、産卵を休止させるという。さらに、家禽(かきん)コレラを媒介したり、セントルイス脳炎ウイルスを保持していたとも報告されている。本種はまた、人体を刺して皮膚炎をおこすことでも有名である。駆除には、低毒性有機リン剤を用い、その乳剤をダニの生息域一帯に、ほぼ1週間の間隔で数回繰り返して噴霧する。

 ワクモは、ムクドリ、ハト、スズメ、ペットの小鳥などにも寄生し、その一部が人体に移行して皮膚炎をおこすとされている。しかし、スズメやツバメ類には近縁種スズメサシダニD. hirundinisが寄生し、ムクドリの巣には類似種のトリサシダニが大発生して、同様にヒトの皮膚炎の原因種となるので、ワクモとこれらのダニとの正しい鑑別が要求される。

[内川公人]

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改訂新版 世界大百科事典 「ワクモ」の意味・わかりやすい解説

ワクモ (鶏蜱)
Dermanyssus gallinae

ワクモ科のダニ。ニワトリや野鳥に寄生するほか,ヒトを激しく襲ってかゆみを伴った皮膚炎を起こす。世界に広く分布し,日本でも全国的に見られる。体長は0.7mmほどで未吸血時は灰白色ないし褐色であるが,吸血後は1mm以上にもなり,赤褐色から黒色に変ずる。雌によって1日10個ほど産卵された卵は2~3日で孵化(ふか)し,5日間ほどで幼ダニ,第1,2若ダニを経て親ダニとなる。卵と幼ダニ期以外は吸血する。吸血は夜間に行われ,昼間鶏舎の壁などの隙間や,野鳥の巣内に潜む。動物は刺咬吸血による皮膚炎のほか,貧血,栄養障害ならびに夜間の吸血による不眠などの精神的な障害も大きい。ヒトも吸血の被害を受けるほか,セントルイス脳炎を伝播(でんぱ)されることがある。近似種としてイエダニOrnithonyssus bacoti,トリサシダニO.sylviarumがあり,本種と混同しやすい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワクモ」の意味・わかりやすい解説

ワクモ
Dermanyssus gallinae; chicken mite; poultry red mite

クモ綱ダニ目ワクモ科。体長 0.7mm内外。卵→幼虫→第1若虫→第2若虫→成虫という生活史をおくり,夏では1週間ほどで成虫になる。卵と幼虫以外は吸血する。おもにニワトリに寄生するが,他の飼い鳥にもみられる。駆除にはマラソン剤などの低毒性有機リン殺虫剤を使用する。世界の温帯に広く分布し,日本にも多い。近縁種にスズメ,ムクドリなど野生の鳥に寄生するスズメサシダニ D. hirundinisがいる。 (→ダニ類 )

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百科事典マイペディア 「ワクモ」の意味・わかりやすい解説

ワクモ

節足動物ダニ目サシダニ科(別名ワクモ科)。主として鶏を吸血する害虫として知られる。雌は体長0.7mm内外,雄はやや小さい。雌のはさみの先は可動指を失って針状をなす点がイエダニ類と異なる。世界の温帯に広く分布。昼間は板のすき間などにひそみ,夜間活動する。鶏の発育を著しく害し産卵を低下させるだけでなく,人も刺す。セントルイス脳炎を伝播することがある。

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世界大百科事典(旧版)内のワクモの言及

【ダニ(蜱∥蟎∥壁蝨)】より

…家屋内で人を刺すのはイエダニやツメダニが主であり,食品倉庫などではシラミダニによる被害もときとして起こる。家畜,家禽にもダニが多く寄生し,放牧地の牛馬にはマダニ,ニワトリ,ハト,小鳥にはワクモやトリサシダニがつく。貯蔵食品にはコナダニ,ニクダニ,サトウダニが発生し,なかでもケナガコナダニは食品以外に畳に大発生することがしばしばある。…

※「ワクモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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