美術の制度の外部にある者たちによって営まれる美術活動の総称。イギリスの美術史家ロジャー・カーディナルRoger Cardinal(1940―2019)の著書『アウトサイダー・アート』Outsider Art(1972)で提唱された。具体的には、美術教育を受けていない子供や独学者や精神疾患をもつ者らの美術活動などが含まれる。芸術・美術大学を一つの頂点とする美術教育は、その歴史において多くの表現を美術制度の外部へと押しやってきたが、一方でそれをいかにして制度の中へと回収するのかは、近代以降の美術にとっても大きな課題であった。そのような観点から考えられたフォービスム(野獣派)、アール・ブリュト(生(なま)の芸術)、ナイーブ・アート(素朴派)、プリミティブ・アート(原始美術)、エイブル・アート(可能性の芸術)、アート・インコグニト(非芸術家の芸術)といった概念の数々は、そうした関心の多様性を物語るものでもあった。ピカソやクレーといった20世紀美術の大家の仕事も、これら外部の美術活動の影響抜きには考えられない。アウトサイダー・アートもこれらの類義概念の系譜へと連なるものであるが、これらの概念は相互に重なり合う部分も多く、はっきりとした線引きは不可能である。そのなかで、アウトサイダー・アートと最も深いつながりを持っているものとして挙げられるのがアール・ブリュトである。
第二次世界大戦後、ジャン・デュビュッフェが独学者や精神疾患をもつ者の表現に高い創造性を認めたことがきっかけとなって生まれたアール・ブリュトだが、その主張は精神科医であるハンス・プリンツホルンHans Prinzhorn(1886―1933)によって著された『精神病者の芸術性』Bildnerei der Geisteskranken(1922)に多くを負っていた。精神疾患をもつ者の芸術に特徴的な美しさを見いだした同書はアンドレ・ブルトンらを魅了し、第二次世界大戦後アウトサイダー・アートの考え方にも重大な示唆を与えた。アウトサイダーという語のもつ強い意味のため美術の諸制度の外部に位置することが強調されがちだが、アウトサイダー・アートの本質は、人間の原初的な創造性と精神医学の交差点に見いだされる。
このような経緯で提唱されたアウトサイダー・アートはその後短期間のうちに美術ジャーナリズムに浸透し、その斬新な着眼点によって多くの埋もれていたアーティストが発掘された。生前はまったく無名だった画家ヘンリー・ダーガーに与えられた高い評価はその典型であり、また東京の世田谷美術館で開催された「パラレル・ヴィジョン」展(1993)など、既存のアーティストをもアウトサイダー・アートの観点から構成しようとする展覧会も多く開催された。
アウトサイダー・アートに寄せられる期待は、美術の諸制度に対する不満と表裏一体の関係にある。独学者、子供、精神疾患をもつ者といった美術の制度の外部に位置する者たち(非西洋圏のアートも含めて考えられることがあるが、この点に関しては専門家のあいだでも意見が分かれている)の自由で無垢な想像力が、現代美術の閉塞状況を打ち破ることが期待されているのだ。しかし、精神疾患をもつ者や非西洋圏のアートにそのような役割を期待すること自体、健常者や西洋圏の者の身勝手な論理にすぎないし、そもそもアウトサイダー・アートの担い手たちは、まさしくダーガーがそうであったように、ただ己の欲望に忠実に造形活動を行っているだけで、自らがアーティストであるとの自覚さえない場合が多い。アウトサイダー・アートの持つ批評性は、「自由で無垢なビジョン」でさえもが美術の諸制度によって作り出されたものであることを明らかにする鋭さを備えている。
[暮沢剛巳]
『資生堂ギャラリー編『アウトサイダー・アート』(2000・求龍堂)』▽『Roger CardinalOutsider Art (1972, Praegar, New York)』▽『Hans PrinzhornArtistry of Mentally Ill (1972, Springer, New York)』
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