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アジア的生産様式 アジアてきせいさんようしきasiatische Produktionsweise

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

アジア的生産様式
アジアてきせいさんようしき
asiatische Produktionsweise

K.マルクスが『経済学批判』 (1859) の序文で使用した言葉。『資本論』 (67~94) 第1巻第1章では「古代アジア的生産様式」とも述べられている。 1939年にソ連でマルクスの『経済学批判』の草稿とみなされる『資本制生産に先行する諸形態』の遺稿が発表されるまでは,この言葉にはさまざまな解釈が行われてきたが,今日では一般に灌漑農業を主体とするアジアに特有の奴隷所有的,共同体的生産関係をさす。

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デジタル大辞泉の解説

アジアてき‐せいさんようしき〔‐セイサンヤウシキ〕【アジア的生産様式】

マルクスが「経済学批判」の序言で、経済的社会構成体の前進的諸時期の最初においた語。この概念の理解をめぐって、原始共同体的生産様式の別名とする説や奴隷制の古代アジア的形態とみる説など諸説がある。

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百科事典マイペディアの解説

アジア的生産様式【アジアてきせいさんようしき】

国家が水利大工事を通じて村落共同体の個人や家族を直接隷属させる,アジアに典型的な生産様式で,その典型はエジプト,メソポタミア,インド,中国などの古代専制国家。原始共産制に次ぐ古代奴隷制以前の階級社会(マルクスの社会発展論)。
→関連項目灌漑

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世界大百科事典 第2版の解説

アジアてきせいさんようしき【アジア的生産様式 asiatische Produktionsweise[ドイツ]】

マルクスは《経済学批判Zur Kritik der politischen Ökonomie》(1859)の序言の中で〈アジア的・古代的・封建的および近代ブルジョア的生産様式が経済的社会構成のあいつぐ諸時期〉であるといっている。しかしマルクスはアジア的生産様式の内容についてほとんど説明していないので,その理解をめぐって論争が続いている。第2次大戦前の論争は,1925‐27年の中国革命の戦略問題と結びついて,革命の当面する中国社会がアジア的生産様式にもとづく社会であったか否かをめぐって,ソ連,中国,日本などで展開されたものである。

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大辞林 第三版の解説

アジアてきせいさんようしき【アジア的生産様式】

資本主義に先行する生産様式の一。古代オリエントの専制国家に典型的に発達した。首長が部族共同体的諸関係をそのまま搾取の手段とし、土地はもとより成員の人格をも所有し、すべての剰余労働を取得する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アジア的生産様式
あじあてきせいさんようしき
asiatische Produktionsweiseドイツ語

マルクスが『経済学批判』(1859)の「序言」で用いた用語。「大づかみにいって、アジア的、古代的、封建的および近代ブルジョア的生産様式が経済的社会構成の相次ぐ諸時期として表示されうる」と述べているが、アジア的生産様式(当該社会の生産手段の主要な所有関係)については、他の三つの生産様式のようには明確な説明を残さなかった。そのためマルクス主義文献研究の面で、また革命戦略のための社会性格規定のうえで、アジア的生産様式の概念についていろいろと論争されてきた。1927年4月、蒋介石(しょうかいせき)が上海(シャンハイ)でクーデターを起こすと、11月に中国共産党は土地問題党綱草案を発表し、そのなかで、現在の中国はアジア的生産様式から資本主義に移行する過渡期にあるとした。この規定は翌1928年8月の第5回党大会では否定されたが、草案は当時上海にあったマジャールЛюдвиг Игнатьевич Мадьяр/Lyudvig Ignat'evich Mad'yar(1891―1940)の見解に負うところが多く、マジャールは『中国農村経済研究』初版(1928)で、中国の社会経済構成は、人工灌漑(かんがい)が農業の主要条件であり、土地所有が欠如し、国家が最高の土地所有者である東洋的専制主義の国家形態をとるアジア的生産様式であるとした。マジャールのこの見解に対しては、1930年のコム・アカデミー農業研究家全同盟会議で多くの批判が出され、翌1931年2月レニングラード(現、サンクト・ペテルブルグ)で開かれたマルクス主義東洋学研究協会とレニングラード東洋学研究所共同主催の大討論会でも激論が展開された。その模様が各国に伝えられると、これを機に論争が開始された。
 日本でも、すでに始まっていた資本主義論争と相まって議論が行われたが、1935年(昭和10)以降は政治的弾圧のために中止された。その後1939年にマルクスの草稿「資本制生産に先行する諸形態」(1857~1858)がソ連で公表され、1947年に日本にも紹介されると、論争が再開された。草稿中の新しい概念、総体的奴隷制die Allgemeine Sklavereiが、ギリシア・ローマ的古代奴隷制社会とは異なる古代東方社会の特徴を表現したものと解釈され、アジア的生産様式とは、奴隷制のアジア的形態にほかならないとする解釈が一時期有力となったが、その後、アジア、アフリカにおける民族運動の高揚とそれに伴うアジア社会の理解、前近代史とりわけ古代史の理論的把握、マルクス主義文献の検討などの問題として取り上げられた。1964年、フランスの『パンセ』La Pense誌上でこの問題が取り上げられると、論争は国際化し、フランス、ハンガリー、ソ連、日本、中国などで論争が活発となったが、1980年代後半以降、ソ連、東欧圏の深刻な混乱もあって急速に衰えた。
 戦前、戦後の論争は、アジア的生産様式を原始共同体、奴隷制、封建制、資本主義の経済的社会構成体の歴史的発展段階と基本的に合致するものとする説と、それとは別の生産様式とする説に大別される。前者には奴隷制以前の原始共同体とする説、後者には原始共同体のなかから生まれた最初の階級社会で、基本的には世界史上普遍的にみられたとする五段階説。アジア特有の社会とする説。古代奴隷制や封建性のアジア的変種で、アジア地域にのみ、みられた特殊な社会とする説などがある。
 林直道(なおみち)(1923― )はマルクスが使用した「アジア的」という言葉には2種類あり、一つは、通常の地理的概念と同じアジア、もう一つは、原始共同体のことをさしたものであるとした。マルクスの、1868年3月14日付けのエンゲルスあての手紙には「一定の期間における土地の再分配というロシア的な風習がドイツでは所によっては18世紀に至るまで、(略)、保存されていた、ということだ。アジア的またはインド的な所有形態がヨーロッパのどこでも端緒をなしている、という僕の主張した見解がここでは(マウラーのドイツのマルクや村落の研究)新たに証拠を与えられている」と書いてある。マルクスは「アジア的」を「インド的」と同意義に使用し、しかも、イギリスの植民地化に伴って比較的研究の進んでいたインドをアジアの代表とし、インド的(=アジア的)土地所有の形態(アジア的生産様式)はヨーロッパのどこでも端緒をなしているといっている。林は、それはアジアもヨーロッパも含めた人類史の端緒段階すなわち原始共同体のことをさしているのであるとし、さらに原始共同体のなかから階級社会が生まれてくる場合、その階級関係は元の共同体関係を、自己に適合したものに変容させるとして東洋的専制主義の問題を解釈した。
 近年中国の原始社会晩期の考古学研究調査が急速に進展し、紀元前3000年前後に精美な副葬品を伴う大墓や小城郭が黄河(こうが)、長江(ちょうこう/チャンチヤン)の流域で築かれ始めたことが明らかになった。これが「諸形態」にいう総括的統一体とどのようにかかわるか注目に値し、今後の展開が期待される。[五井直弘]
『福富正実編訳『共同体論争と所有の原理』(1970・未来社) ▽塩沢君夫著『アジア的生産様式論』(1970・御茶の水書房) ▽小林良正著『アジア的生産様式研究』(1970・大月書店) ▽『アジア的生産様式』F・テーケイ著、羽仁協子訳(1971・未来社) ▽林直道著『史的唯物論と所有理論』(1974・大月書店) ▽『中国史研究』1981年3期(中国社会科学院歴史研究所)』

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世界大百科事典内のアジア的生産様式の言及

【時代区分】より

…しかしこの場合も,年代的にいつからいつまでをそれらの時代とするかについてはさまざまな見解がある。そればかりではなく,マルクスの《経済学批判》序言に見える〈アジア的生産様式〉なる概念で表示される社会構成が実際には何を意味したかについては長い論争史がある。すなわち奴隷制社会のアジア的形態(古典古代の奴隷制社会よりも未熟な形態)と解する見解や,〈古典古代的〉,〈封建的〉,〈近代ブルジョア的〉生産諸様式と同列にある別個の独立的生産様式と解する見解などがあり,いまだに意見の一致がみられない。…

※「アジア的生産様式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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アジア的生産様式の関連キーワード古代社会(歴史)東洋的専制主義社会発展段階説F. テーケイ小林 良正アフリカ史資本主義剰余労働早川二郎首長成員搾取

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