日本大百科全書(ニッポニカ) 「所有論論争」の意味・わかりやすい解説
所有論論争
しょゆうろんろんそう
所有とは、一般的には、人間が外界の自然を支配することであり、所有権とは、法律的には、客体たる物に対する使用、収益、処分など全面にわたる排他的な支配権とされている。しかし、本来的には、特定の社会関係のもとで諸個人(主体)が生産の諸条件および生産物(客体)に対して自分のものとしてふるまうことをいう。この主体の客体に対する支配は、歴史の各発展段階において異なった形態をとり、したがって所有のあれこれの形態の経済的内容は、所与の社会の生産諸関係の総体を通じてのみ解明できるのであって、その意味では、経済的範疇(はんちゅう)としての所有は生産諸関係の総体にほかならないということも可能である。
したがって、所有諸形態は歴史的に多様である。まず、人類の始原に共同体的所有が検出される。この共同体はやがて共同体的所有と私的所有とをともに含む第二次的な共同体へと転化し、さらにそれは近代ブルジョア社会の純粋な私的所有によって駆逐される。そしてこれも、共産主義的な共同的所有にとってかわられることが見通される。こうして、所有理論にかかわる問題領域は、人類史の発展に応じて広い範囲にわたることとなる。
第二次世界大戦後、社会諸科学の研究の進歩、とりわけ史的唯物論理解の深化に伴って、前述の広範な領域にわたって所有理論が深められてきている。具体的にはそれは、人類史上における資本主義的私的所有の位置、その果たす歴史的役割を確定するという問題関心を結節点にして、太古の原始共同体の崩壊と私的所有の発生・発展、およびその資本主義的私的所有への転化、さらには、人類が私的所有を乗り越えて社会的=共同的所有を再獲得していく見通しの問題、つまり社会主義的所有の理論的・実践的問題など、人類史全般にわたるきわめて広範囲の領域に及んで展開されているのである。所有論論争とは、このような領域に及ぶ広範な論争の総称である。
これらのなかで近年とくに活発に展開されている論争としては、「アジア的生産様式論争」「領有法則の回転をめぐる論争」、さらには「社会主義所有論争」などが特筆されるであろう。第一の論争は、すでに戦前から路線問題とも関連して国際的広がりで議論されていたが、戦後旧ソ連において復活し、日本でも活発に展開されるようになっている。第二は、資本主義的私的所有の成立をめぐる理論的問題で、『資本論』1巻7編の当該テーマの理論的把握をめぐる論争である。第三のそれは、スターリン批判以後社会主義のあり方の理解をめぐる対立も含みながら国際的・国内的に大きな波紋をよぶ論争となっている。
これらの諸論争は、いずれも史的唯物論の理論的深化、当面する資本主義の命運の把握とも深くかかわって議論されている点に大きな特徴があるといえる。
[真木實彦]