農作物の生育を安定させ,農業経営の合理化をはかるために,乾燥地域あるいは年間の降雨の分布が均一でない地域の耕地に,組織的に水を供給して行う農業。エジプト,メソポタミアなどでは有史以前から行われている。1980年ころには,インド,中国,ソ連,アメリカをはじめ約120ヵ国で実施されており,その面積は世界全体の耕地面積の十数%にあたる2億ha以上に達している。そのうちの70%以上がアジアで,その大部分は水稲栽培の行われている水田である。日本の灌漑面積の大部分も水田であるが,畑地灌漑もかなりの面積で行われている。日本の降水量は平均1500~1600mmに達するが,7~8月にはしばしば10日以上の無降水期間があり,数年に1回は干害をうける。したがって,灌漑することによって畑作物の生産を高め安定させ,品質を向上させ,さらに果菜類など収益性の高い作物を積極的に導入することも可能になるなど,潜在的な干害を防止する効果は大きい。乾燥地帯では灌漑なしでは安定した作物生産を営むことは困難であるが,一般に日射量も多い地域でもあるので,灌漑を行うことによって農業生産力は飛躍的に増大する。たとえばアメリカの西部・太平洋沿岸では灌漑施設の整備によって,年間降水量の著しく少ない地帯まで農耕可能地が拡大され,トウモロコシ,ダイズをはじめ各種野菜,果樹などで高い生産をあげている。乾燥地帯ではとくに,灌漑に伴って排水を行い,土壌保全に努めなければ,土壌に塩類が集積して土壌生産力が低下し,農業を行えない不毛の土地にしてしまうことになる。
→灌漑
執筆者:石原 邦
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