改訂新版 世界大百科事典 「アメフラシ」の意味・わかりやすい解説
アメフラシ (雨虎)
Aplysia kurodai
春季,海岸の岩れき地の海藻の間にふつうに見られる殻が著しく退化した黒いナメクジ型のアメフラシ科の巻貝。日本各地,朝鮮半島,中国,台湾に分布。体の長さは通常15cmくらいであるが,大きいのは40cmに達する。体をのばすと長卵形,前方へ細くなり,黒色に小さい灰白斑が全面にあるが,個体変異が著しい。頭には前触角と後触角(嗅角(きゆうかく))が各1対ある。前者が大きく,その形がウサギの耳のようなのでアメフラシを英名ではsea hareという。眼は小さく嗅角の間の基部にある。後方の太い内臓のある部分には左右に側足葉という薄い膜の突起があり,背上にある外套(がいとう)膜で包まれた薄い殻を覆っているが,泳ぐときはこれを翼のようにひらひらと動かし,体をくねらす。殻の下には一つのえらと紫汁腺があり,刺激されるとこの腺から紫色の粘液を噴出して身を守る。緑藻や褐藻を食べる。雌雄同体。生殖口は右触角の後方にある。3~7月ごろ海藻の間や岩れきの下に黄橙色のひも状の卵塊を束ねて産む。これをウミゾウメンと呼び,発生がすすむと褐色になる。近縁のクロヘリアメフラシA.parvulaは小型で5cmくらい,側足葉の縁が黒色でやはり紫汁を出す。ジャノメアメフラシA.dactylomelaは本種より大型になり,斑紋が著しく,紫汁を出す。アマクサアメフラシA.julianaは体が飴色で紫汁を出さない。
執筆者:波部 忠重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報