アメリカザリガニ(英語表記)Procambarus clarkii

改訂新版 世界大百科事典 「アメリカザリガニ」の意味・わかりやすい解説

アメリカザリガニ
Procambarus clarkii

エビガニとも呼ばれる甲殻綱アメリカザリガニ科のエビ。和名が示すように原産地はアメリカで,人為的な移入による代表的な帰化動物一つであり,近年ではペットとしてもなじみ深い。日本には北海道と東北地方の一部に在来のザリガニがいるが,現在では,単にザリガニといえばアメリカザリガニを意味していることが多い。日本への移入については異論があるが,すでにアメリカから食用として移入されていたウシガエルの餌とするために,1930年にルイジアナ州ニューオーリンズで100匹購入し,船で送ったものであるという。横浜港に無事着いたのは20匹で,さっそく神奈川県岩瀬村(現在は鎌倉市に編入)のカエル養殖池に放され,それが大雨後に逃げ出し,また一部は人為的に各地に運ばれて,現在では北海道を除く全国の河川,湖沼,池,水田などに広く分布している。体長は10cm内外。頭胸甲は円筒形。額角は長三角形で,先端近くの側縁に小さなとげがある。第1~3胸脚ははさみをもち,とくに第1胸脚が強大である。交尾は6月ごろ行われ,抱卵している雌は9月ごろまで見られる。卵は長径約2mmで,400粒内外である。約1ヵ月後に体長4.5~5mmの稚エビで孵化(ふか)するが,1回脱皮した第2稚エビまでは尾節糸によって親の腹肢とつながっている。孵化後1年間に9回くらい脱皮して体長4.5cm,1年半くらいで体長6cmほどの大きさになって生殖可能になる。春に地中温度が8℃くらいになると活動を始め,動・植物性の食物を選択することなく食べる。巣穴は単純な棒状であることが多いが,入口が二つあるY字状であったり逆T字状であったりして,大型個体では深さが50cmを超える。したがって,植えたての稲を食害したり,あぜの水もれを引き起こす害がある。原産地のアメリカ南東部のミシシッピ川流域各地では食用として重要種で,養殖も盛んに行われている。

孵化後満1年くらいまでの個体はつねに水中で生活しており,したがって水槽に水をたくさん入れて飼育する。餌はイトミミズ鰹節などがよく,水草もよい食物となる。大型個体を飼う場合には,背中が隠れる程度に水の量を少なくする。ザリガニは体を横にして空気を取り入れることができるが,水量が多くて水面に届かない場合は,水が汚れるとすぐ死んでしまう。一つの水槽中にたくさん入れると,餌を与えても,共食いしてしまい,脱皮した個体は必ず食われてしまうので要注意。脱皮が近づくと動きが止まり,頭胸甲と腹部境目が白っぽくなるのでわかる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アメリカザリガニ」の意味・わかりやすい解説

アメリカザリガニ
Procambarus clarkii; red swamp crayfish

軟甲綱十脚目アメリカザリガニ科。アメリカ合衆国ルイジアナ州周辺を原産地とする淡水産のエビで,日本には 1927年にウシガエルの餌として初めて神奈川県に移入され,その後本州,四国,九州全県に広まった。体長 15cmに達し,各地でエビガニ,あるいは単にザリガニと呼ばれている。日本ではあまり食用としないが,原産地では養殖も行なわれ,中国やアフリカ東部には食用目的で移入された。アフリカでは大繁殖し,生態系への悪影響が懸念されている。6月頃脱皮,交尾に続いて 400粒ほどを産卵する。卵は長径約 2mmで,約 1ヵ月後に 4.5~5mmの成体形で孵化する。満 1年で平均 9回の脱皮を繰り返して 4.5~5cmとなり,1年半後には約 6cmになって性的に成熟する。水田のあぜなどに深い穴を掘ってすみ,小魚,ミミズ,イモリなどを好んで捕食する。また植物の新芽なども食害し,稲作にも害を与える。日本では生態系に被害を及ぼすおそれのある外来種(→外来生物)とされており,積極的な防除が推奨されている。(→甲殻類十脚類節足動物軟甲類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アメリカザリガニ」の意味・わかりやすい解説

アメリカザリガニ
あめりかざりがに
Clark's crayfish
[学] Procambarus clarkii

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目ザリガニ科に属するエビ。アメリカ原産であるが、現在では北海道を除く日本各地に広まっており、ペット(愛玩動物(あいがんどうぶつ))として子供に人気がある。日本ではほとんど食用にしないが、アメリカでは食用とし養殖も行われている。

[武田正倫]

 アメリカザリガニは生態系被害防止外来種にあげられているが、すでに大量に飼育されており(約65万世帯で約540万匹)、防除の対象となる特定外来生物に指定するとかえって不法投棄を招き、生態系への被害が拡大するおそれがある。そのため、2022年(令和4)の改正外来生物法では、アメリカザリガニの輸入、販売、放出を規制するのみになっている。

[編集部 2022年11月17日]


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百科事典マイペディア 「アメリカザリガニ」の意味・わかりやすい解説

アメリカザリガニ

エビガニとも。甲殻類ザリガニ科に属するエビ。体長10cm内外。1930年に米国から神奈川県大船にショクヨウガエルの餌(えさ)として移入されたのが初めといわれ,本州,四国,九州各地の水田や小川に広がった。日本にも固有種のザリガニがいるが,現在は単にザリガニといえばアメリカザリガニをさすことが多い。動物移住のよい例である。体は黒地に赤色で美しい。農作物や淡水動物には害を与えるが動物実験に役だつ。
→関連項目帰化動物

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世界大百科事典(旧版)内のアメリカザリガニの言及

【帰化生物】より

…人間が意識的に帰化を図って成功したものとしては,日本には,沖縄県が毒ヘビ,とくにハブの駆除を目的として,1910年にインドから移入し渡名喜島などに放したマングース,農林省が狩猟鳥を増やす目的で,19‐20年に中国南部から移入し,東京と神奈川に放したコジュケイ,同じく30年ころから数次にわたって朝鮮から移入し,北海道日高に放鳥したコウライキジ,カの駆除を目的に台湾から移入し,東京,千葉などで野生化している北アメリカ原産のカダヤシ(タップミノー),食用に中国から移入し,利根川水系で野生化しているソウギョなどがある。 偶然に帰化したものとしては,飼育していたものが逃げ出して定着したものに,1918年ころから食用に北アメリカから移入し,各地で養殖していたが,その一部が逃げ出して各地に野生化したウシガエル,そのウシガエルの餌として30年ころ神奈川に移入して養殖していたところ,大雨による出水で逃げ出して,付近の水田などに野生化し,しだいに各地に分布を広げたといわれる北アメリカ産のアメリカザリガニ,35年ころ食用に台湾から移入したものが,小笠原,奄美,沖縄などに野生化した,アフリカ原産のアフリカマイマイなどがある。また,愛玩用に飼育していたものが逃げ出して帰化したものに,北海道,岐阜の金華山などに野生化した韓国産のチョウセンシマリス,東京付近などに野生化したセキセイインコその他多数の飼鳥,動物園で飼育していたものが逃げ出して野生化したものに,伊豆大島,鎌倉などにすみついた台湾原産のタイワンリス,毛皮獣では第2次大戦中南アメリカから輸入し,各地で盛んに養殖していたが,その一部が逃げ出し,岡山その他に野生化したヌートリア,同じころ養殖されていたと思われ,東京の江戸川付近に定着している北アメリカ産のマスクラット,戦後毛皮獣として輸入され,養殖されていたものが逃げ出し,北海道で野生化した北アメリカ産のミンクなどがある。…

※「アメリカザリガニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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