広義では古アラム語からシリア語までのアラム語群の記録に見える文字の総称。前9~前7世紀の古アラム語は,当時のシリア・パレスティナ地方共通の文字体系であった北西セム文字(いわゆるフェニキア文字)で書かれ,以後のアラム文字はすべて,この文字体系から変化したものである。後期アラム語では各方言ごとに多少とも異なる字形を示し,方言名に従ってサマリア文字,パルミュラ文字,ナバテア文字,シリア文字等と呼ばれる。それゆえ狭義では,アラム語が比較的に統一を保っていた帝国アラム語時代の,上記諸文字の母胎となった文字を,アラム文字と呼ぶ。これは当時の西南アジアにおける共通語であったアラム語の勢力に乗じて,周辺の非セム語地域にも広がった。なお,死海写本のアラム語がヘブライ語とまったく同じいわゆる方形ヘブライ文字で書かれていることからもうかがわれるように,ヘブライ文字自体も実はアラム語社会の中でできたものである。
→アルファベット
執筆者:松田 伊作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
フェニキア文字から派生した北セム系アルファベットの一つ。前6世紀にオリエント全域に流布,のち陸上交易路に乗って東方に流伝し,モンゴル文字,満洲文字などの北アジアの諸文字や,一説では,インドや東南アジアで使用されている諸文字の母胎となった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…本来はアラビア語を表記するための文字であるが,コーランと共にイスラム世界に広がり,現在ペルシア語,ウルドゥー語,ベルベル諸語等の表記にも用いられ,かつてはマレー語,ソマリ語,ハウサ語,スワヒリ語,および1928年の文字改革以前のトルコ語もこれで書かれていた。 前1世紀以後ナバテア王国のアラビア人が公用語たるアラム語を書くのに用いていた北西セム文字(ラテン文字の祖型であるいわゆる〈フェニキア文字〉)から変化したアラム文字を,アラビア語にも適用し,その際,1語の中では字母どうしを続けて書くようになった。それに伴い,同形になった字母(例えばb,n,y)を区別し,さらにはアラム語にないアラビア語の子音,例えばḍ,ẓ,ḫ(本事典におけるラテン文字転写kh),ġ(同,gh)を表す必要上,おそらくシリア文字の例にならって字母の上または下に点を付けて識別するようになり,現在のアラビア文字ではこの識別符号も字母の一部と見なされる。…
…ササン朝ペルシア後期以後ゾロアスター教の書物を記すのに用いられているパフラビー語の文字。起源は22の子音文字から成るアラム文字で,これがイラン系の言語を写すのに用いられるようになると,いくつかの文字はアラム語系のイデオグラム(表意文字)のみに用いられるか,あるいはまったく用いられなくなり,また残りの文字のうちgとdとy,’(アレフ)とh,wとnとrがそれぞれまったく同形となって最終的には14文字を数えるのみとなった。さらに二つの文字の連続が第三の文字と同形になることもあり,読解は困難を極める。…
※「アラム文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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