物体に塑性変形を与えると,変形の度合が増すにつれて変形に対する抵抗が増大し,変形を受けていない材料よりも硬くなる。これを加工硬化,もしくはひずみ硬化という。塑性変形を支配する因子には材料中の転位の運動,双晶変形,すべり変形が挙げられるが,加工硬化には転位が大きく関与する。すなわち,塑性変形に伴い転位が増殖され,それが不均一な分布となり,互いにもつれ合うことで運動する転位に対する障害となり,それ以上の転位の運動が抑制されるために変形抵抗が増す。したがって,一度,塑性変形を受けてきた材料はその応力範囲で弾性挙動を示し,もとの材料より降伏点(塑性変形開始点)は高まって,塑性変形を起こしにくくなるとともに破断伸びが小さくなって,いわゆるかたい性質を呈する。加工硬化を生じた金属はかたく強くなるが,もろくなる。加工硬化をうまく利用したものにピアノ線があるが,このような材料には変形抵抗に関して異方性が生じ,加工硬化させた方向への負荷には強いが,逆方向負荷に対する降伏点は低い。この現象はバウシンガー効果とよばれる。材料の加工硬化の度合を示すものに加工硬化指数がある。これは応力σがひずみεのn乗に比例する場合のnを指す。
σ=kεn(kは強度係数)
一般に加工硬化指数の大きいものは加工性に優れるといえる。加工硬化した材料は,焼きなましすることによって軟化させることができる。
執筆者:岸 輝雄
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ひずみ硬化ともいう.金属結晶に降伏点を超えた外力が加えられると,外力を除いても回復しない塑性変形を起こす.この塑性変形をさらに進めるためには,さらに大きな外力を加えなければならない.この塑性変形の進行に伴う変形抵抗の増加を加工硬化という.単結晶の場合,最初に一つのすべり系のみですべりが起こるので,加工硬化は微弱である.しかし,変形により結晶軸が回転を起こすため,ほかのすべり系がはたらきはじめ,転位の切合いが起こり,すべり面上に転位の障害が急激に増加し,硬化する第二の段階に入る.ついには転位は交差すべりにより障害物を避けて,進行できる応力にまで硬化する(第三段階).この応力以後の硬化はあまり顕著ではない.多結晶では第二および第三段階の硬化のみ観察される.加工硬化は塑性加工において障害となるが,一方,製品の降伏点を高めるので,機械的性質は改善される.加工硬化は焼なましにより回復される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
… 降伏点をこえてさらに変形を続けると,一定の速さで変形を増加させるのに必要な力は,再び大きくなる。すなわち変形を起こさせることによって物質が硬くなるわけで,この現象は加工硬化と呼ばれる。いくつかの段階の硬化過程を経て,最後には破壊が起きるが,このように所要の形に変形をさせた後,その形がそのまま残るのは実用上非常に重要な性質であり,この固体の塑性を利用した加工法を塑性加工という。…
※「加工硬化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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