アメリカのストー夫人の小説。1850年の逃亡奴隷取締法に反発して雑誌に連載。52年単行本として出版されるや一躍ベストセラーとなる。シェルビー家の黒人奴隷トムとエリザの運命を対照的に描く。忠実で敬虔なトムは妻子と引き離されて奴隷商人の手に渡り,最後には残忍な主人レグリーになぶり殺される。一方,子どもが売られることを知ったエリザは逃亡し,北部の〈地下鉄組織〉の助けを得てカナダに到着,自由の身となる。奴隷主には人情家もいるが結局は奴隷は財産として処分され,家族は引き裂かれる悲劇がさまざまなエピソードを通じて描かれる。自由の尊さ,人間の魂は売買の対象にならぬことをキリスト教的人道主義に基づいて強く訴え,国内外に大きな反響を呼び,南北戦争誘引の原動力の一つになったとさえいわれる。最近では,トムに対する黒人の反発はあるが,文学作品としても見直されている。
執筆者:板橋 好枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人道主義の立場から奴隷制を批判したアメリカの女流作家ストー夫人の小説。1852年刊。出版後1年で30万部以上を売り尽くし、世界的な名声を得た。ケンタッキー、ルイジアナの農園を背景に、善良な黒人奴隷トムがたどる悲惨な境涯を描いている。一時はやさしい主人セント・クレアとその娘エバのもとで幸福に暮らすが、2人の死によりふたたび売られて悪魔のような奴隷商人レグリの手に落ち、鞭(むち)と責め苦で非業の死を遂げる。奴隷制擁護論者の激しい攻撃に対し、作者は『アンクル・トムの小屋への手引』(1853)を著し、この物語の真実性を例証した。
[関口 功]
『吉田健一訳『アンクル・トムス・ケビン』全二冊(新潮文庫)』
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…すなわち,かつての小説は絵空事であって,実人生はそのようなものではないことを示すような小説の時代になる。リアリズムの傾向は,ストー夫人の《アンクル・トムの小屋》(1852)や,17世紀セーレムの魔女事件をホーソーンのように神秘的に提示するのでなく,実証的に扱おうとしたJ.W.デ・フォレストの《魔女の時代》(1856‐57)に始まり,その後およそ100年間,アメリカ文学の中心を占めることになる。最初の本格的リアリズム作家はクーパーのようなロマンス作家を敵視したマーク・トウェーンであった。…
…〈ブラック・フィルム〉あるいは〈ブラック・ムービー〉ともいわれ,日本語に訳せば〈黒人映画〉であるが,その背景には長い歴史がある。アメリカ映画に〈黒人〉が登場したのは,ストー夫人の《アンクル・トムの小屋》の最初の映画化(1903)で,これはエドウィン・S.ポーター監督による12分の作品であったが,このときトムを演じたのは顔を黒く塗った白人の俳優であった。同じ原作の4度目の映画化(1914。…
…中国の近代科白劇,新劇をいう。1907年,春柳社が《椿姫》《アンクル・トムの小屋》を東京で上演したのに始まる。春柳社は,欧陽予倩(おうようよせん)ら東京に留学していた留学生が,壮士劇や新派の影響を受けて,1906年末に結成した劇団である。…
※「アンクルトムの小屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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